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 晩熟おくてな話だが、家族以外の他人とこういう接触をしたことは初めてだったのだ。
「ん……んん!」
 たくましい腕に抱きしめられ、さらに激しく唇を吸われた。必死にのがれようとすると、叱責のような言葉が降ってくる。
「逆らうな、俺は客だぞ」
 客、と言われてはこれ以上抵抗できなくなり、リィウスは渋々、手から力を抜くしかない。必死の努力で泣きだしそうになるのをおさえた。
 どうしてこんなことになってしまったのか……。
 リィウスは嗚咽しそうになるのをこらえた。よりにもよってディオメデスに買われ、抱かれることになるとは。
 澄んだ蒼い目が露に濡れたサファイアのように涙をふくんできらめくのを、ディオメデスはどう思ったのか。
「泣くな……。もう、おまえは俺のものだ」
 強引に、また紅薔薇の花びらのような唇をうばう。
 リィウスは息苦しさに気が遠くなりそうになった。
 上唇をかるく噛まれ、反射的に開けてしまった唇を割って、相手の舌が侵入してくる。
 リィウスは背にいかずちがながれた錯覚がした。
 娼婦たちによって後ろの園を幾分か慣らされはしたが、思えばこの行為にかんしては手ほどきを受けなかった。手練てだれの遊女たちからみれば教えるほどのことでもなかったのか、タルペイアはこの行為にさほど重きを置いていなかったのか。
「あ……ふぅ……」
 呼吸をするのが辛い。身体が熱い。リィウスは目が霞むのを自覚した。
 恐怖と、嫌悪は当然ある。だが、未知の世界へ今自分が足を踏み入れた実感もある。
 ディオメデスが、いらだたたしげな仕草で、衣の結び目を解こうとしている。その結び方はヘラクレス結びといわれる本結びで、本来なら花嫁が初夜をむかえるときに結うことになっており、それをほどくのは花婿だけの権利だった。今宵、ディオメデスはリィウスの花婿、ということになるのだ。
「ちっ……!」
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