燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 ほどくのが面倒くさくなったのか、忌々しげに舌打ちすると、ディオメデスはふところから取り出した短剣で、自分の手をはばんでいた衣の紐を切りとった。クレオパトラの閨をおとずれたアントニウスも、エジプト宮殿の深宮にひるがえる帳を刃で切りさき、女王の寝室をおとずれたか。
「あっ……」
 花嫁衣裳を思わせる純白のトーガの前が割れ、白絹のような肌が、ほのかな蝋燭の元に異様になまめかしく見える。ディオメデスがもらした息が室に響く。
「俺のものだ。……覚悟しろよ」
 ディオメデスが体重をかけてきて、もちこたえきれず、リィウスは寝台に倒れた。
「ああ……!」
 無意識に、悲痛な声をあげてしまっていた。これ以上、弱い所は――今更だが――見せたくなく、リィウスは歯を食いしばった。
 寝台の上で、あらためて接吻された。
 唇のみならず、頬に、額に、首筋に……そして剝きだしにされた胸に。遠慮を知らない男は、リィウスの上半身のすべてに舌を這わせようとする。
「うう……」
 羞恥と屈辱にリィウスは歯をくいしばって、ほとんど本能的に相手をかわさそうと両手を伸ばしていたが、すぐに買われた我が身の立場を思い出し、力を抜く。
 タルペイアの、さからっては駄目よ、という声が聞こえてきそうだ。
 そんな、防御を解いていく、というより解かざるを得ないリィウスの様子を、またどう思ったのか、一瞬、行為を中断した相手は、さらに激しい接吻の雨を降らせてきた。
 衣は無残に割かれ、長く白い手足があらわになる。薄闇のなかに浮かびあがる白い裸体は、ヴィーナスに祝福されたかのように美しい。
 張りつめた白い胸、ほんのりと、闇にも鴇色めいてかがやく突起。汗と唾液に濡れて、信じられないほどに妖しくぬめり、うごめく。
「あっ……! はぁ……!」
 リィウスは自分がされていることが、自分がしていることが信じられなかった。
 こともあろうに、長年憎み嫌っていたディオメデスの手と口、舌によって翻弄され、あられもない姿をさらし、子どものように啜り泣き、女のような喘ぎ声を引きずりだされている。
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