燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 こういうところもエウトュキスの面白い、というか、味わいあるところだ。男にもてあそばれる仕事をしていても、自分の客には、ちゃんとまともな客も多いのだと、庇うところがさりげなくいじらしい。こういう職業娼婦として筋のとおったところは、どことなくアスパシアを思わせる。彼女もギリシャ系だった。ギリシャの女はどこか芯があって誇りたかい。
「そうか」
 ふー、と息を吐いて、ふたたびディオメデスは寝ころんだ。
 身体を売る女に墜ちても、気骨きこつをうしなわない女に、自分は魅かれるのだろうか、とディオメデスは柄にもない自己分析をしてみた。
 そして、そんなことを思っていると、やはり閉じた瞼にちらくつくのは鳶色の髪にサファイアの瞳の、美しい青年である。彼の面影はオデュッセウスを惑わせた伝説のセイレーンのようにディオメデスを物狂おしくさせ、悩ませる。
 今頃、どうしているのか……。
 とりとめなく思う。下町の売春宿で、安い女の身体を抱き、その細い腕に抱かれ、ひとときのまどろみの果てに、べつの相手を想い浮かべている自分が、まるで陳腐ちんぷな芝居の登場人物になった気がする。
(リィウスは……この時間はまだ休んでいるのだろうか?)
 昨夜、とうとう快を極めて、全身で感じていたリィウスのすさまじい姿態が頭に浮かぶ。
 あのときの、全身を玉の汗にまみれさせ、羞恥に悶えぬいたあげくに絶望的な悲鳴じみた声とともに己をぜさせたリィウスの姿は、痛々しくはあっても、ひどく官能的で、それでいて神々しいほどに美しかった。
 不覚だが、あの瞬間、覗き見していたディオメデス自身も情を放ってしまった。
 その後は気を失ってしまったリィウスを、宦官たちがタルペイアの指示にしたがって、慎重に青銅の馬から下ろしていた。それからは、宦官たちによって別室に運ばれたようだ。誰かが介抱したのか、寝かせたのか、そこまではディオメデスは知らない。
 今日はどうしているのだろう、とディオメデスはまたぼんやり思う。まだ、眠っているのか。さすがに今は起き出して、昨夜の痴態におののき、恥じ入り、涙ぐんでいるのかもしれない。
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