燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 おとなしそうで地味な女の方が、ときに華やかで気の強い女よりも、すさまじい影響を男に与えるのだと、その商人は笑いながら説明してくれた。
(ずるいわ。娼館の女たちなんて、誰しも苦労や不幸を背負っているのに、自分だけ特別苦しんでいるという顔をして……。身の不幸を餌にしてディオメデスの心をあっさりと奪っていくなんて。私はずっと、もうずっと、出会ったときからずっとディオメデスのことを想っていたのに)
 ベレニケの胸内で、メデューサが怒り狂い、頭上ではギリシャ神話のエリニュス――ローマではフリアエと呼びならわされている――三人の女神たちが笑いさんざめく。
 女神たちが歌うように告げる。仕返ししろ、と。そんな狡い相手には復讐してやるといい、と。
(そうよ、このままだと、ディオメデスはリィウスに破滅させられてしまうわ。そして、リィウスはディオメデスの精を吸いとって、ますます美しくなって魅力的になって、新たな男を狂わせるのだわ)
 ほとんど妄想のような勝手な想像がベレニケを昂ぶらせる。恋情は人を狂わせるが、嫉妬もまた人を狂わせるのだということにベレニケは気づいていない。
 そんな暗い夢想にふけっていると、足音がして新たな客があらわれ、ベレニケは我にかえった。
「あら、ようこそ」
 すぐに職業意識をとりもどして愛想よくふるまってみる。が、ふと奇妙なものを新手の客に感じた。
「お客様、お目当てはどなた? 私で良ければお相手しますけど」
 たまたま広間にいたのはベレニケだけだった。他の娼婦はまだ準備中か、すでに早めに来た客の相手をしている。
「ふむ……。君が良ければ是非相手をしてくれるかな」
 かすれたような声だが、聞きぐるしくはない。ベレニケは咄嗟に相手を値踏みしていた。
 身なりは悪くない。欲を言えば、もう少し若ければ、と思うが、容姿もごく普通で、メロペのように生理的にいけ好かないということもない。だが……、なにか奇妙なものを感じる。なんだろう。
「では、葡萄酒でも用意させましょうか?」
 すぐに部屋に行くには気が引けるし、相手も年齢のせいかそう焦っているようでもない。しばしくつろいだ方がこの新しい客に自分を良く印象づけられるだろう、とベレニケは踏んだ。
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