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七
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だが、それよりもなによりも、妙に引っかかるものがあって、今少し床入りを伸ばしたい気分にさせられた。
(このお客、あの人にどことなく似ている気がするわ。なんとなく、雰囲気が)
このときベレニケの頭に浮かんだのは、ウリュクセスである。
物腰がおだやかで品もあるのだが、どこか胡乱なものが臭ってくる。危険な男だ、とベレニケは直感した。
「君は、何か悩みでもあるのかい?」
長椅子に座った途端、そんなことを言われ、ベレニケはびっくりした。
「え? ど、どうしてそんなことを言われるのかしら?」
「私は人の気持ちや感情に鋭いのでね」
相手は目を細める。
「あら、あなた占い師? もしくは神官かしら?」
ベレニケは冗談っぽく訊いてみた。実際、神官がお忍びで女を買いに来ることもある。
「いや、商売をしているのだが、本業は薬師でね」
男はおだやかそうに笑った。
客としては上客とは呼べないかもしれないが、この館へ入ってこられたのだから、それなりに裕福なのだろう。身なりは質素だが、もしかしたら大富豪ということもありえる。たまにそんな酔狂な真似をする金持ちもいる。
ベレニケは笑みを消さないよう努めた。なにかしら、怖いのだが、この客に魅かれるものもある。
「お客様、お名前はなんておっしゃるの?」
「私の名前かい? ふふふふ。カニディアというのだよ」
ベレニケはやや首をかしげた。
「まぁ、女性のような名前ね」
「ああ、そのせいでよくからかわれたよ」
カニディアは苦笑した。笑うと、剣呑な雰囲気がくずれて、かすかにだが愛嬌めいたものもにじみ、ベレニケを安心させた。
なんとなく、この客とは気が合いそうだ、と思っていた。
(このお客、あの人にどことなく似ている気がするわ。なんとなく、雰囲気が)
このときベレニケの頭に浮かんだのは、ウリュクセスである。
物腰がおだやかで品もあるのだが、どこか胡乱なものが臭ってくる。危険な男だ、とベレニケは直感した。
「君は、何か悩みでもあるのかい?」
長椅子に座った途端、そんなことを言われ、ベレニケはびっくりした。
「え? ど、どうしてそんなことを言われるのかしら?」
「私は人の気持ちや感情に鋭いのでね」
相手は目を細める。
「あら、あなた占い師? もしくは神官かしら?」
ベレニケは冗談っぽく訊いてみた。実際、神官がお忍びで女を買いに来ることもある。
「いや、商売をしているのだが、本業は薬師でね」
男はおだやかそうに笑った。
客としては上客とは呼べないかもしれないが、この館へ入ってこられたのだから、それなりに裕福なのだろう。身なりは質素だが、もしかしたら大富豪ということもありえる。たまにそんな酔狂な真似をする金持ちもいる。
ベレニケは笑みを消さないよう努めた。なにかしら、怖いのだが、この客に魅かれるものもある。
「お客様、お名前はなんておっしゃるの?」
「私の名前かい? ふふふふ。カニディアというのだよ」
ベレニケはやや首をかしげた。
「まぁ、女性のような名前ね」
「ああ、そのせいでよくからかわれたよ」
カニディアは苦笑した。笑うと、剣呑な雰囲気がくずれて、かすかにだが愛嬌めいたものもにじみ、ベレニケを安心させた。
なんとなく、この客とは気が合いそうだ、と思っていた。
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