燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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冥界の女王 一

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 ディオメデスは焦っていた。
 早く柘榴荘に行かねば、という想いでいっぱいだ。馬を急がせ、忠実な従者のトマスが止める声にも耳を貸さず、いまやすっかり通い慣れた柘榴荘に着くと、少しだけ安心した。
 空は墨色に染まりはじめている。額にうすくにじんだ汗を袖でふいた。
 来るのが遅れたのは、金策に時間がかかったせいだ。今日の花代を得るために、いくつか宝石を売った。
 この建物のなかにリィウスがいる。そう思うだけで胸が高鳴る。
 門番に名を告げ、足早に館内へ入る。門番の宦官や、館の召使たちが、上客にたいして礼儀ただしくおもねるような態度を取りながらも、ちらちらと好奇と揶揄のいりまじった目で自分を見ていることは勿論知っている。
 だが、もはやどうにも己を自制することができなくなっていた。
 家人にも心配され、アウルスからは忠告され、父とは昨日怒鳴りあいの喧嘩にまでなった。これ以上、男娼に入れあげて散財するなら本当に廃嫡するぞ、とまで言われた。だが、それでもここへ来ることを止められない。いや、リィウスに会うことを、彼を求めることを止められなくなってしまったのだ。
 この館の奥には、まさにその名のとおり、冥界の果実があるのだ。一口食せば、忘れられない禁断の味を自分は味わってしまった。それがあまりに美味なのは、死者の王国で無数の屍を養分として成った実だからだろうか。
「リィウスはいるか?」
 迎えに出てきたリキィンナに問うと、リキィンナはあきれたて笑ったが、そこには満足の笑いも混じっている。リキィンナもタルペイアも、ディオメデスがリィウスに夢中になり、ほとんど狂人のようになってこうして柘榴荘に夜毎出入りしていることを喜んでいるのだ。
 ただ単に金を落としてくれるからという金銭的な理由だけではなく、自分たちの商品の出来が良いのに満足し、金を払って商品を買う客のディオメデスが、今やすっかりその商品に篭絡ろうらくされてしまっているこの状況が面白くてしかたないのだろう。
 こっちはまったく面白くないが、ディオメデスだとてこれが他人のことなら笑ったろう。よもや自分が娼館の男娼に溺れるなど夢にも思わなかった。だが、すくなくとも、ディオメデスには自分の今の異常な状態を自覚しているだけまだ冷静なところがのこっているのだ。
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