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二
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だが、それも金が尽きてきて、いよいよどうにもならなくなると、危なくなってしまうかもしれない。それを予想できる判断力が、頭のなかで必死に警鐘を鳴らしているのだが、本能は理性を凌駕していた。
「なぁ、タルペイアは何か言っていなかったか?」
「何かって?」
二人は石床の上をすすみながら話した。
「だから、いったいどうしたらリィウスを俺に売ってくれるのだ?」
自分の声が余裕をうしなって苛ついているのがわかる。
「馬鹿ねぇ」
リキィンナが哀れむように黒い眉を寄せた。
「そんな顔や態度を見せたら、ますますタルペイアはリィウスを手放さないわよ。あの人は、それが面白くて女将をやっているぐらいなんだから」
一瞬鼻白んだリィウスに、リキィンナは得意げに小声でつづけた。酒の臭いがする。少し酔っているようだ。
「あの人が娼館を営んでいる一番の理由はなんだと思う?」
「理由?」
「そうよ。あの人は、すでにお金なんてたくさん持っているのよ。引退してのんびり過ごすこともできるのに、こうやって世間から白い目で見られてもこの館の主でいるのはなんのためだと思う?」
「なんのためと言われても……」
ディオメデスは意図せぬ質問にとまどった。
そんなことは考えたこともない。先代の女将の娘だからだろう。
貴族の家に生まれた人間が貴族になるように、奴隷の生んだ子が奴隷になるように、生まれ落ちた場所で育ったからそうなったのだろう。それぐらいに思っていた。
「聞いたことない? あの人の祖母だったか、曽祖母という人は、もとは貴族の出だったそうよ。それが、当時の法律に違反することを承知で不倫の道をえらんで、みずから娼館の主になったんですって」
先祖が貴族だということは聞いた記憶があある。
「そして、あの人の母親も娼婦となり、客とのあいだにあの人を生んだのよ」
そうか……。ディオメデスは曖昧にうなずいた。リキィンナの言わんとするところが掴めない。
「なぁ、タルペイアは何か言っていなかったか?」
「何かって?」
二人は石床の上をすすみながら話した。
「だから、いったいどうしたらリィウスを俺に売ってくれるのだ?」
自分の声が余裕をうしなって苛ついているのがわかる。
「馬鹿ねぇ」
リキィンナが哀れむように黒い眉を寄せた。
「そんな顔や態度を見せたら、ますますタルペイアはリィウスを手放さないわよ。あの人は、それが面白くて女将をやっているぐらいなんだから」
一瞬鼻白んだリィウスに、リキィンナは得意げに小声でつづけた。酒の臭いがする。少し酔っているようだ。
「あの人が娼館を営んでいる一番の理由はなんだと思う?」
「理由?」
「そうよ。あの人は、すでにお金なんてたくさん持っているのよ。引退してのんびり過ごすこともできるのに、こうやって世間から白い目で見られてもこの館の主でいるのはなんのためだと思う?」
「なんのためと言われても……」
ディオメデスは意図せぬ質問にとまどった。
そんなことは考えたこともない。先代の女将の娘だからだろう。
貴族の家に生まれた人間が貴族になるように、奴隷の生んだ子が奴隷になるように、生まれ落ちた場所で育ったからそうなったのだろう。それぐらいに思っていた。
「聞いたことない? あの人の祖母だったか、曽祖母という人は、もとは貴族の出だったそうよ。それが、当時の法律に違反することを承知で不倫の道をえらんで、みずから娼館の主になったんですって」
先祖が貴族だということは聞いた記憶があある。
「そして、あの人の母親も娼婦となり、客とのあいだにあの人を生んだのよ」
そうか……。ディオメデスは曖昧にうなずいた。リキィンナの言わんとするところが掴めない。
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