燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

文字の大きさ
165 / 360

しおりを挟む
 だが、それも金が尽きてきて、いよいよどうにもならなくなると、危なくなってしまうかもしれない。それを予想できる判断力が、頭のなかで必死に警鐘を鳴らしているのだが、本能は理性を凌駕りょうがしていた。
「なぁ、タルペイアは何か言っていなかったか?」
「何かって?」
 二人は石床の上をすすみながら話した。
「だから、いったいどうしたらリィウスを俺に売ってくれるのだ?」
 自分の声が余裕をうしなって苛ついているのがわかる。
「馬鹿ねぇ」
 リキィンナが哀れむように黒い眉を寄せた。
「そんな顔や態度を見せたら、ますますタルペイアはリィウスを手放さないわよ。あの人は、それが面白くて女将をやっているぐらいなんだから」
 一瞬鼻白んだリィウスに、リキィンナは得意げに小声でつづけた。酒の臭いがする。少し酔っているようだ。
「あの人が娼館を営んでいる一番の理由はなんだと思う?」
「理由?」
「そうよ。あの人は、すでにお金なんてたくさん持っているのよ。引退してのんびり過ごすこともできるのに、こうやって世間から白い目で見られてもこの館の主でいるのはなんのためだと思う?」
「なんのためと言われても……」
 ディオメデスは意図せぬ質問にとまどった。
 そんなことは考えたこともない。先代の女将の娘だからだろう。
 貴族の家に生まれた人間が貴族になるように、奴隷の生んだ子が奴隷になるように、生まれ落ちた場所で育ったからそうなったのだろう。それぐらいに思っていた。
「聞いたことない? あの人の祖母だったか、曽祖母という人は、もとは貴族の出だったそうよ。それが、当時の法律に違反することを承知で不倫の道をえらんで、みずから娼館の主になったんですって」
 先祖が貴族だということは聞いた記憶があある。
「そして、あの人の母親も娼婦となり、客とのあいだにあの人を生んだのよ」
 そうか……。ディオメデスは曖昧にうなずいた。リキィンナの言わんとするところが掴めない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...