燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 この返答は、ますますリィウスを怒らせた。
「不愉快な奴だな! 人が心配しているのに。何故また笑う」
「いやぁ……」
 ディオメデスはおもしろくてならない、というふうにまた笑った。リィウスの、「心配しているのに」という言葉が彼をひどく喜ばせたことにリィウスは気づけないでいた。
 笑い止まぬディオメデスに本気で腹を立てたリィウスは、思わずつかみかかってしまった。
「おい、こら……!」 抗議の声にも笑いがふくまれている。
「こら、止せ」
 両手を取られて、逆に相手のたくましい胸に引き寄せられてしまう。
 肌と肌とが触れ合い、熱が生じ、互いの肉の固さを感じあいながら、子どものように、じゃれあう仔犬たちのようにもつれあう。
 しばらく揉みあい、やがて、ディオメデスに抱き込まれるかたちでリィウスは降参した。どのみち力ではかなわないのだ。
「ああ、もう……」
 ひと息、天井をいろどる七色のモザイク模様に向けて吐きだしたあと、おもむろに、ためらいながらもリィウスは口をひらいた。やはり言わねばならない。
「なぁ……」
「なんだ?」
「……ここへはもう来ない方がいい」
 かたわらの男の体温が一気に冷めたのがわかった。だがリィウスは告げた。
「金も随分使ってしまったのだろう? お父上から勘当を迫られていると聞いた……。これ以上愚かなことをしてはいけない」
 しばしの沈黙のあと、低い声が響く。
「俺がおまえを買わなかったら、他の男がおまえを買うことになるのだぞ」
 ディオメデスはエメラルドの双眼を天井に向けたまま言う。その様子からひどく怒っていることが伝わってくる。
「仕方ない。そういう約束でこの仕事を選んだのだから」
 言っていて自分でも情けなくてたまらない。背を向けるように横向きになった。ディオメデスを拒絶するように。
「おまえは、他の男の方がいいのか?」
 声には怒りがこもっていた。
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