燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 そんなことを言われても答えようがなく、リィウスは唇を噛んだ。
 男娼なのだから、金を出した客の相手をするのは義務だ。選びようもないし、断ることなどできない。そんなことをしてタルペイアを怒らせたら、ナルキッソスがリィウスの代わりに身を売ることになるのだ。
 だが……。リィウスは我が身を抱きしめたくなった。
 リィウスは、ディオメデス以外の男をまだ知らない。
 女たちや、ウリュクセスに、散々ひどいいたぶりを受けたとはいえ、身体をまじらわせた相手はディオメデス一人だけだ。ディオメデスの肉と熱しか身に感じたことがないのだ、まだ。
 それを思うと、身体のうちにほのかな暖かみすらわいてきて、リィウスをとまどわせる。
 できることなら、このままディオメデスだけの相手をしていたい、とさえ思ってしまう。
(他の男には……、抱かれたくはない……)
 そんなことを思っている自分が恥ずかしく、恐ろしい。
 男に、しかもかつて憎みあった学友にそんな想いをけるなど、男娼になること以上にあってはならないことのように思える。
「なぁ、答えろ。おまえは俺以外の男に抱かれたいのか?」
 リィウスの懊悩に気づくことなく、ディオメデスは声を荒らげて訊いてくる。
「そういうわけでは……」
 なんと答えていいのかわからないまま、リィウスは無理やり身体を起こされて眉を寄せた。そんな表情をどう取ったのか、ディオメデスの声はますます荒くなる。
「おまえは……、おまえ、まさかすでに他の男に抱かれたのか?」
 まるで情人に言うような言葉を投げつけられ、リィウスはひたすら困惑した。
「ち、ちがう。おまえだけだ……、まだ……」
 まだ、という言葉が微妙に響くのを、言った方も言われた方も感じていた。
「おまえは、他の男を客に取りたいのか?」
「仕方ないだろう? 私はそういう立場なのだから」
 男娼であるからには、金を払われたら、相手をしないわけにはいかないのだ。ディオメデスの双眼からエメラルド色の火の粉が飛んできそうだ。
 リィウスは不覚にも、滅多に見せない怯えを見せてしまった。
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