燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 あのおぞましい夜、ウリュクセスたちの前で死ぬほどの辱しめを受けた。
 だが、それもたいしたことではないと、この残酷な夜の女王はあっさり言ってのけた。
「木馬に乗ったぐらいはまだ軽いものよ。私は以前、ラオコーンの伝説にあやかって、蛇だらけの甕に入れられた男娼を見たこともあるし、パシパエの真似をさせられて牛とつがわされた異国の娼婦も見たことがあるわよ」 
 ラオコーンは、ギリシャ神話の女神アテナの怒りを買って蛇の怪物に殺され、パシパエは雄牛に恋をしてそれとつがい、怪物ミノタウロスを生んだと言われている。
 蛇の甕に入れられた男は、蛇が毒を持っていたのか、熱を出し、翌日に息絶えた。パシパエの役をさせられた女におよんでは、宴が終わるまで生きていることはできなかった。
 聞くだにおぞましい話である。
 だが、そんなことが平然と行われているのがローマの夜である。いや、夜でなくとも、そういった狂的な催しは富裕層の気晴らしに真昼間から公然と行われていた。
 仮に過激な見世物で奴隷や娼婦男娼が大怪我をして命を落としたとしても、罪とも違法ともみなされない。奴隷がどう扱われても、金を払った主人が納得していれば罪ではないのだ。娼婦男娼は奴隷の別名であり、剣闘士や女優や役者も似たようなものである。
 この時代のローマ帝国では、人間と、人間とはみなされない生き物が、おなじ都の空の下、ともに生きていた。そして、昼夜を問わず悲劇がくりひろげられていたが、人々にとっては悲劇という認識もない、日常の事であった。
「タルペイアよ、リィウスを連れてきてくれたのだな」
 いつの間にか、近くにウリュクセスが来ていて、リィウスたちの背筋を固くさせた。
「え、ええ。今夜はお招きいただき光栄ですわ」
 咄嗟にタルペイアは職業的な笑みを見せる。
「この娼婦は……名はなんだったかな?」
 サラミスの無残な遺体を見下ろし、ぞっとするほど平然とウリュクセスが訊く。リィウスは怒りよりも驚きのほうがまさり、さらに、恐怖をおぼえた。
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