燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 果てることなき地獄の宴は続いた。
 異国の王の前でみずから手を焼いて勇気を証明してみせたムキウスの真似をさせられた奴隷もいれば、獣を手なずけたオルフェウスの真似をさせられ、獰猛な犬に立ち向かわされた奴隷もいた。
 本当なら獅子や虎を用意したかったそうなのだが、広い闘技場ならともかく、個人の屋敷では、獣が観客を襲うこともありえるので、今回は犬にしたという。
 奴隷たちの悲鳴を聞きながら、リィウスはいったい自分が何をされるのか、誰の真似をさせられるのか、想像もつかずひたすら怯えていた。
 けっして気弱な方ではないと自負していたつもりだが、それでもサラミスの酷い最期や、目の前で血に染まってのたうっている奴隷の姿を見ると、やはり生身の人間の悲しさで、リィウスは恐怖に震えずにいられない。
 聞く者の臓腑ぞうふをえぐるような叫び声をあげ、苦痛をうったえて必死に許しを求めている奴隷の姿を、笑いながら見ている客たちの冷酷さに身体の芯が冷える。
 彼らは人間なのだろうか。声をあげて笑っている人々を見てリィウスはぼんやりと思った。
 ここで人間とみなされていないのは、犬に脚をかまれて石の舞台を転がっている不運な奴隷の方なのだ。哀れである。だが、次は自分の番なのだ。
 リィウスは次に己に起こることを予想して夜空をあおいだ。
 ケンタウロスを演じてもらう、とウリュクセスは言っていた。上半身人間であり下半身が馬である半人半獣の真似を演じるとは、どういうことなのか。リィウスは背が強張こわばってきた。できることなら、今すぐここから立ち去りたいが、それは叶わない。
「待たせたね、そろそろ出番だよ。……あの男をよく見るがいい」
 ウリュクセスがそう言ったのと、観客たちが静まったのは、ほぼ同時だった。
 リィウスは目を凝らした。ウリュクセスが指差した先に、何かがいる。客たちの視線もそこへ集まっていた。
 最初、リィウスはそれを、大きな犬だと思った。だが、それは……よく見ると人間だった。
(まさか……)
 篝火かがりびが映し出したその姿に、息を飲んで恐怖に震えた。次の瞬間、一瞬だけ安堵した。
「小人か?」
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