燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 その名は前列いる客たちの耳にも届いたろうか。
(ああ……!)
 落ちぶれたとはいえ名家の嫡子である自分の、今の信じられないこの身の上を知られ、リィウスは悲鳴をあげそうになった。
 リィウスの苦衷くちゅうとはまた別に、下になっているトュラクスの怒り憎しみが激しくなり、その熱波と怒気にリィウスはまた身もだえする。
「あ……、あぅっ!」
 体内に埋没した異物が、まるでトュラクス自身のように震え猛ってきた錯覚をおぼえた。
「うっ、ううっ……!」
 のけぞった瞬間、頭上に白い光が見えた、と思うと、縄が落ちてきて、左右の男たちが慣れた手つきでリィウスの両手首を縛りあげる。縄は二階あたりの露台から伸ばされている棒へとつなげられていく。
「あっ、あああ!」
 縄が引きあげられ、リィウスの両手も上がっていく。まるで吊り上げられた魚だ。
 痛みに眉をしかめる哀れな虜囚の姿が薄闇に浮かびあがるのを、女は楽しげに見つめている。
「噂どおり、美しいわね。……そこいらの女よりはるかに美しいわ……。……が、夢中になるわけだわ」
 かすかに耳にそんな呟きが聞こえてきたが、リィウスは訝しむ余裕もない。
「あっ、よ、よせ!」
 女がリィウウの左胸の先端を細長い指でつまんできた。
「ほほほほほ。その苦痛にゆがむ顔がまた麗しいこと……。こんな綺麗な男を乗せられるのだから、この〝馬〟は幸せね」
 女の禍々まがまがしいほどに美しくかがやく目に、かすかに嫉妬の光が弾けて、リィウスを驚愕させた。
 女は、リィウスの美貌を妬み、さらに、トュラクスと、この異常な状況で繋がっているリィウスに、他者には理解不能な嫉妬の情感を向けているのだ。
「うぐっ……!」
 トュラクスが女に向かって吼えた。文字どおり、あらんかぎりの憎悪をこめた声で女にむかって吼えたてたのだ。言葉にはならないが、ただ激しい怒りは感じられた。リィウスの位置からは見ることはできないが、視線で人を刺すことができるのなら、このときのトュラクスの眼光はエリニュスを抹殺しかねないほどに壮絶だった。
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