燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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十一

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 啜り泣きながら、自然にリィウスはトュラクスの首あたりに顔を埋める形をとっていた。
 汗と血の匂いがする彼の肌は、温かく、どこか懐かしいような気さえする。だが、そんなことを思っていたのは一瞬だった。
「ほら! 動くのよ!」
 エリニュスが足でトュラクスの尻を蹴る。とうてい、まともな女がする行為とは思えない。
 リィウスは憎悪をとおりこして、いっそ、ここまで異常なことができるエリニュスという女が哀れになった。人を人と思わない貴族の女にしても、彼女の過激さは普通ではない。通常の貴婦人ならば、憎い虜囚や気に入らない奴隷を傷つけるにしても、召使に命令してさせるぐらいで自ら手を下すことはない。さりげなく踏みつけにするぐらいならばまだしも、裾を散らして足で蹴るなど、あり得ない。この女は完全に常軌を越している。
 トュラクスは、おそらくは胸のなかで吹きすさんでいる瞋恚しんいの嵐をおさえ、葛藤を飲みこみ、全身を震わせながら手足を動かす。
「ああ……」
 トュラクスの動きに、当然リィウスの身体も揺れる。
 エリニュスによって体内に埋めこまれた道具が内できしみ、リィウスは歯を食いしばった。
「うっ、うううう!」
 縛り付けられている腕で、リィウスは尚必死にトュラクスにしがみつく形になった。
「さぁ、もたもたしていないで、お客様の前を一周してくるがいいわ」
 リィウスは羞恥に悶えた。
 今のリィウスは、サンダル以外は何ひとつ身に着けていない。そのあられもない姿で、あろうことかトュラクスの背にまたがる格好で縛り付けられ、しかも、背後からは淫靡な道具の柄を突き出しているのだ。これほど情けない姿があるだろうか。いまだかつて、娼婦であれ、奴隷であれ、捕虜であれ、これほどに想像を絶する辱しめを受けた者がいたろうか。
 その様子は、世にも惨めで、例えようもなく卑しく浅ましく、壮絶に淫らであり、それでいて悲愴な美に満ちていた。
 
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