燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 リィウスは気になることを口に出していた。
「男? ウリュクセスなら用事でついさっき出たというわ。え? 違うの? あら、もしかしてトュラクスのこと?」
 タルペイアが訝しむ目をして、素っ気なく答えた。
「トュラクスなら地下に繋がれているわ」
「ひどい……」
 リィウスは昨夜自分が受けた仕打ちも忘れて、悔しげに呟いていた。そんなリィウスの表情を見て、タルペイアが目を見張る。
「まぁ、珍しい、というか不思議ね。おまえが弟以外のことでそんな顔をするなんて。まさか、トュラクスに惚れたの?」
「ち、ちがう! そうではない」
 あれほどの美丈夫に、あんな陰険残酷な真似をするウリュクセスやエリニュスが許せないのだ。
「あ、あの女はいったい何者なのだ?」
「女? ああ、エリニュスのこと? まぁ、勿論本名ではないのだけれどね」
「本名を知っているのか?」
 ふふふふふ……。タルペイアが笑うと、昼の光のなかに夜の香がたつ。
 この女も不思議だ。貴族の血を引く娼婦というのは、実をいうとそれほど珍しくはないが、富と裏の世界に通じる様々な伝手つてを持つ彼女は、ただの娼館の女将ではない。
「本名は、言えないけれど、まぁ、あの女もいろいろ裏がある女ね」 
「だから、何者なのだ?」
「人妻よ。ある有力者の後妻。名を言えば、誰もが知っているような人物のね」
「だから力があるのか?」
「まぁ、そうだけれど」 
 そこでタルペイアは彼女にしては珍しく迷うような目を見せる。
「彼女の場合、どちらかというと、……まぁ、言ってしまってもいいでしょうよ。人を……自分の思い通りにすることがうまいのよ」
 誑かすということか。たしかに歳は取っていても、充分美しい女だった。権力者を手玉に取って物事を思うようにしてきたのか。
「そういうのとは、ちょっとちがうわね。まぁ、この世には帝王より強い魔女がいるのよ」
 おまえもその魔女の一人だろう、という言葉をリィウスは飲みこんだ。
 いずれにしろ、エリニュスという女は底知れない恐ろしさを持つ女なのだ。
「あと、言っておくわ。おまえはウリュクセスに買われたから」
「え?」 リィウスは仰天した。
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