燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「わ、私を売ったというのか? よりにもよって、あの男に?」
「そんな驚いた顔をしないでちょうだいよ。なによ? 嫌ね、私がまるで裏切ったみたいじゃないの」
 タルペイアが心底驚いた顔を見せる。心外だ、というように。
「どのみち、おまえは男娼じゃないの? ウリュクセスに相場の三倍のお金を提示されたのよ……。お金の問題だけではなく、あの男にはかなわないのよ。いいえ、あの二人にはかなわないわ。エリニュスが、おまえを買いあげろと、ウリュクセスにせがんだらしいわ。ウリュクセス自身も相当おまえを気に入ったみたい」
 リィウスは背に悪寒が走るのを感じた。
「そ、そんな……あの男に、あの二人に私を売るなど……。いくらなんでも私に一言も訊かず」
 タルペイアは眉をしかめて首を横に振る。
「今のローマであの二人を敵にまわして勝てる相手なんていないわよ」
 リィウスは掛けられていた布の端を握りしめていた。肌には薄物をまとっているだけだが、気を失っていたときに誰かが着せてくれたようだ。
「安心なさいよ。エリニュスだって毎日来るわけじゃないわ。新月と満月の夜の宴のときだけよ。それにウリュクセスは、」
 そこでタルペイアは意味ありげな含み笑いを見せた。
「ご当人自身が楽しむより、見ている方が好きなようだから、お相手をせずとも良いのだし」
 だが、その代わり、あの異常な責めを受けねばならないのだ。それは、実際に相手と交わるより、さらに凄まじい屈辱と羞恥をリィウスにもたらす。
 自分がウリュクセスに売られたことは衝撃だが、ナルキッソスたちと会うことも出来なくなる。それがさらに辛い。
 だが、考えてみれば、どのみちナルキッソスやアンキセウスに会うことなどできなかったのだ。
(あんな……あんな目に合わされたこの身体を、どうしてナルキッソスやアンキセウスの目に晒すことが出来るだろう?)
 自虐めいた想いにリィウスはうなだれてしまう。
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