燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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男の夢 一

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 悪人たちの哄笑に身悶えてしている美しい戦士と貴公子の二人を見て、私兵のマヌグスはいいようのない恍惚感におそわれた。
 マヌグスはかつてローマ軍団の兵卒だったが、あまりの訓練のきびしさに耐えかねて脱走した過去を持つ。この屋敷で私兵として使われている男たちは、たいていはマヌグスのような兵隊くずれである。
 ローマ軍の訓練は過激なことで有名である。夏であろうが冬であろうが、薄い戦闘靴カリグラで重い荷を背負い、一日がかりの長距離の行軍を強いられる。少しでも遅れると容赦なく叱責が飛んでくる。背が低いマヌグスには過酷だった。
 マヌグスが属していた百人隊の隊長は良家の出で美男で有名だったが、部下にひどい体罰をあたえることでも有名だった。少しでも気に入らないことがあると、瘤のあるオリーブの木でしたたかに殴りつけてくる。打ちどころが悪くて死んでしまった仲間もいたぐらいだ。いまだにマヌグスは夜明けの夢に、その隊長を見、汗みずくになって起きることがある。
 来る日も来る日も熾烈きわまりない訓練に、あくことなき上官の暴力にさらされ、すっかり性根がひねこびてしまったマヌグスは軍を抜け出したものの田舎に帰ることもできず、今は権門の家の飼い犬となり、こういう形で己の手に落ちてきた犠牲者をいじめることで鬱憤を晴らしているのだ。
 しかも目の前の二人の男はどちらも趣きはちがうが美形だ。貴族らしい若い男は、女とみまごうばかりの麗貌にしなやかな体躯を持ち、全身が真珠でできているのではないかと思うほどに、地下牢の薄闇のなかで、その五体に玻璃の粒のような汗を浮かべ、妖しく輝いている。
 もう一人の男は、マヌグスも以前から知っている有名な剣闘士で、男が見ても、いや、男が見てこそ惚れ惚れするような肉体美にめぐまれている。貴族の青年よりか幾つか年長のようだが、まだ充分に若い。こちらは飴色にかがやく肌で、野性と異国の情緒にあふれ、見る者に遠国の美獣を思わせる。
 そんな対照的な二人の美青年が、あろうことか互いの臀部を淫らな道具で犯され、お互いに背を押しつけあい、快をきわめることを強制され、泣きじゃくりながら信じられないような浅ましい行為を繰り返しているのだ。

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