燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「ああっ、トュラクス、う、動かないで!」
 貴族の青年が狼狽して四肢をゆらす。トュラクスの動きが、肉体の敏感な場所を突いたようだ。
 だがトュラクスの耳に彼の言葉はとどかない。トュラクスもまた襲いかかってくる快楽と闘うだけで精一杯なのだ。
「うううっ、ううっ!」
 不様にも脚を曲げて、背後のリィウスの中心をえぐりながら、自分自身を犯され、身体の最奥に狼藉を受け、男として最大の侮辱を受けながらも、汚れることなき彼の誇りたかい魂は、ひたすらここにはいない何者かにすがるように、必死に、一途に〝そのとき〟がおとずれるのを、いや、そこへ行くのを求めている。だが、それは彼の崩壊へとつながるものだ。
 マヌグスはトュラクスの苦しみに満ちて、それでいて悦の入り交じった複雑な表情をじっくりと味わった。このままいつまでも見ていたいぐらいだ。
「う! ああっ……!」
 今度はトュラクスが先かしらね……。妖女のおもしろそうな声が耳に響く。
 ふたたびトュラクスが貴族よりも先に声をあげたとき、マヌグスは低い声で告げた。
「待て、まだだ」
 言うや、マヌグスはあらかじめ懐の胸内に用意していた細い麻の紐を取り出し、膝をつくと、わざとらしいほど丁寧な手つきで、その紐をトュラクスの下肢にまわす。
「あっ、よ、よせ!」
 これ以上ないほどの侮辱を受けたトュラクスだが、それでも私兵の手が触れた瞬間、頬を焦がし、不自由な体勢であらがった。
「な、なにをする?」
「おまえが、エリニュス様に無礼な口を聞けないよう、徹底的に躾てやるのさ」
「さ、触るな!」
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