燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 抗いむなしく、ぐい、と太腿を背後から開けられる。
 すべてが、いっそうあらわになる恥辱にリイゥスは絶叫しそうになった。
「や、やめろ! 無理だ、やめてくれ!」
「うるさいよ、兄さん」
 ぱしん、と平手で臀部を打たれる。屈辱の音が、なぜか小気味よく耳に響いてくる。
 リィウスは、いっそ気を失えれば楽だったかもしれない。
「香油を塗ってやるといいわ」
 今までどこにいたのか、いつから見ていたのか、静かに近寄ってきたタルペイアは、透明色の小さなものをナルキッソスにわたす。準備道具を常に持ち歩いているところは、さすがに娼館の女将だけのことはある。
「ふうん」
 名工がつくりあげた孔雀をあしらった玻璃細工の容器の空洞のところに、蜜色に見える油が輝いている。尾のところが封をしてあるので、使うときは折らなくてはならない。その贅沢で洒落た容器を、ナルキッソスがたいしてとまどわずに受け取り、あっさり尾を折ったのは、以前にも使用したことがあるからだろう。
 さらに慣れた手つきでナルキッソスは、滴るものを義兄の秘密の園にそそぐ。
「うっ、ううううっ!」
 受け止めきれなかった油が石床のうえに落ちて黒い染みをつくる。
「ああ! よ、よせ! やめろ、触るな!」
「うるさいよ、兄さん」
 うんざりした声を放ち、ナルキッソスは碧の氷のような目を兄に向ける。
「まだまだ修行が足りてないね、兄さん。娼婦や男娼はね、主にさからってはいけないんだよ。何をされても文句は言わず、ひたすら客の喜ぶようにしなくてはね。そうだろう、タルペイア?」
「ええ。そうよ。そのとおりだわね」
 タルペイアの黒い瞳は感情を見せない。
「うわぁ……、兄さんのここ、あたたかくて、気持ちいい。すごい……良さそう。いい、兄さん?」
「あっ、あああっ!」
 リィウスの、苦しみに満ちた声は、だが、やがて、その音色に潤いのようなものを含みはじめた。
「はぁっ、ああっ……! くぅ……うううっ……」
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