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二
しおりを挟む「いたぞ! あの男だ!」
客たちはなにが起こったか、すぐには理解できなかった。
酒と麻薬と色に酔い、誰しも濁った夢の世界のひとときを楽しんでいたのだ。
「え? な、なんだ?」
「どうしたんだ?」
「きゃーっ!」
辺りに悲鳴があがり、剣が討ちあう音がこだまする。数人の男たちがなだれこんできたのだ。粗末な衣をまとっているが、動きから、彼らが訓練をつんだ兵士だということをディオメデスは察知した。
「あそこだ! あの男だ」
男たちのひとりが獣のように吼えた。
「逃がすな!」
彼らの目当ては、高価そうな黒絹の衣をまとった客人のようだ。つられてディオデスも目線をその客に向けたが、ここからでは後ろ姿しか見えない。
(若くはないな。老人と呼んでもいいぐらいだ)
その男をめがけて、彼らは突進していく。
女たちの悲鳴があがる。
追撃者たちは、邪魔するものに容赦なく、行く手をはばむ者たちに躊躇なく武器を向ける。
「とんだ邪魔が入ったな」
やけにのんびりした声が聞こえてきたと思ったら、そこには、見覚えのある男がいた。
「お、おまえ、たしか、……カニディア……?」
屋敷に出入りしていた商人……だったか。
そんな名前だったことは、かすかに覚えている。
「おや、私ごときの名をちゃんと覚えていてくれたのですね」
あたりが皆あわてふためいているというのに、相手は場違いなほどにのんきだ。
さらに悲鳴が大きくなる。人の入り乱れる足音もはげしい。
「アウルスは? あいつ、どこへ行ったんだ」
つい先ほどまで目の前にいた友人の姿が見えない。捜す暇もなく、激しく、禍々しい音がディオメデスの鼓膜を襲う。
男たちは、目当ての人物のみならず、客たちにも剣を向けてきた。
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