燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「カニディアと私は双子の姉弟だったのさ。あたしらの母は墓所で死体荒らしをしたり、墓参に来た男の袖をひく淫売だった。そのあげくにあたしらを身ごもったというわけさ。あたしらは物心ついたときから墓荒らしをしながら生きてきた」
 母は二人が幼いうちに死んだ。二人は墓を荒らし、貧民街のごみをあさって、どうにか露命をつないでいた。あるとき双子がいつものように新しい墓をさぐっていると、黒い衣に身をつつんだ二つの影が月光に揺らいだ。
 それはサガナ、カニディアと呼ばれる魔女の姉妹だったという。魔術につかう赤子の死体をさがしていたのだ。サガナとカニディアは、幼い二人にどういうわけか興味を持った。
「最初は多分、あたしらを殺して魔術の道具に使うつもりだったんだろうけれど、カニディアが言ったんだ」
(姉さん、この子たちを弟子として育ててみないかい?)
 気まぐれからか、後継者を望んでか、魔女姉妹は幼かった二人を手元において、薬草や毒草、魔術について教え込んだ。勿論、下働きとして充分こき使ったが。
 双子が十五になったとき、姉妹は毒薬の種類をまちがって調合し、煮てしまい、その毒に当たって亡くなった。
「案外、あんたか弟が、わざと別の薬を混ぜていたんじゃないかい?」
 皮肉で言ったつもりだが、返ってきた薄ら笑いは、それがまるきしナルキッソスの推量でないことを物語っていた。
 そのときから、双子は師の名を受け継いで、サガナ、カニディアと名乗るようになった。
「姉妹たちもまた育ての親である毒師の夫婦の名を受け継いでいたのさ」
 そうやって、サガナ、カニディアという希代の毒師の名は受け継がれてきたようだ。
「今度はおまえが新たなカニディアとなって毒師となるのだ」
 いやだ、という言葉は出ない。他に、この先、生きる道はないような気がするからだ。
(ああ、いいさ。俺が次のカニディアとなって、毒師となって生きるさ。そうして、あらゆる毒を作り、大勢の人を病気にしたり死なせたりするのだろう。案外、そんな生き方が俺にふさわしいのかもしれない。望むところさ)
 生まれながらに親からも神々からも見放されて生きてきた自分には、毒師となって世間の底辺にひそみ、暗黒の道をあゆむことは、これ以上ないほどにふさわしい生き方なのかもしれない。
 生まれたときはエペオスという名で呼ばれ、のちにナルキッソと呼ばれた男は、今は毒師カニディアという名をもらい、ささやかな満足を得た。

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