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七
しおりを挟むエウトュキスは溜息をついた。
雨の日は気だるい。世間の噂では、近々、あらたな若き皇帝が世に出るらしいが、そうなったからといって、何がどう変わるのだろう。
雨の日に物悲しい気分になるのは、先日、まだ若い娼婦が自害したからだ。
(馬鹿な娘……せっかく恋人が迎えに来てくれたというのに)
金色の髪の美しい娘だったが、首をくくって汚物を垂れながしにして息絶えていた姿は見れたものではなかった。
(いったい、何が不満だっていうのよ。恋人が、必死になってさがして、わざわざ来てくれたっていうのにさ)
親しかったわけではないが、彼女の遺体を見たエウトキュスは泣いてしまった。
ここへ売られて来たときの彼女は、やつれ果ててひどい有様だった。場末の淫売宿へ来るのは、哀れな女と決まっているが、彼女は本当にひどく哀れだった。もともとがかなり美しい女であることがしのばれるだけに不憫だった。
いったい、どうしてこんな下級の売春宿に売られることになったのか、それとなく訊いてはみたが、彼女は決して答えなかった。
やがて彼女をたずねて逞しい男が店に来た。男は剣闘士だったというだけあって、見るからに男らしく凛々しかった。
今の身の上に落ちたことを恥じていたのだろう、彼女は会うのを嫌がって泣いた。会わせる顔がない、と嘆いていたのをエウトュキスも幾度か聞いた。それでも朋輩が、せっかっく来てくれたのだし、客なのだから、と説得して合わせ、帳を張った向こうから二人の話し声が聞こえること数刻。男が帰るとき「明日、迎えに来る」と言っていたのを、エウトュキスはうらやましく聞いたものだ。
何かの事情があって娼婦となり、こんな底辺の店まで売られてきた彼女のことを、男はあきらめずに捜しもとめ、追いかけ、迎えに来てくれたのだ。なんという誠実な男だろう。そこまで想われのだから、喜んで相手の胸に飛び込めば良かったものを。
(馬鹿な娘)
男が迎えに来てくれた日の朝、彼女は物置小屋でひとりしずかに逝ったのだ。
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