サファヴィア秘話 ー闇に咲く花ー

文月 沙織

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蕾責め 四

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「鞭はだめだが、少しは男の手にも馴れさせていかないとな。ドド、おまえ殿下の胸を揉みほぐしてやれ」
 これはドドにとっては願ってもない。彼は四角い顔を丸くすると、あおむけにされているラオシンにおおいかぶさるようにして、彼の胸をにぎりしめるようにつかむ。
「あ、つうっ! さわるな!」
 哀れな生贄は卓のうえで身体をひねるが、逃げきることはできず、一瞬はなれたごつごつした塊は、また無礼にも胸をまさぐってくる。ラオシンは苦悶に顔をゆがめた。
「こら、落ち着けドド、そんなにあわてるな。おい、リリ、棚の香油を持ってこい」
「はい」
 しばらくすると、リリの細い指がラオシンの胸に触れてきて、ねっとりとしたものを上半身に塗りたくっていき、やがて彼のうすく飴色がかった肌が、香油に染まって琥珀のように輝く。
「そうだ。あますところなく塗ってやれ。いいか、ドド、そっとだぞ、そっと。おまえがいつも相手にしている下級の男娼とは生まれ育ちがちがうんだ」
「へい」
 一瞬、覚悟はしたが、それでも無骨な男の太い指が敏感なそこに触れてくるとラオシンはまたものけぞった。
「う……うう」
 ラオシンの両方の胸の突起を、ドドはそれぞれの手の親指と人差し指でつまみあげ、くねくねと揉みほぐす。ふたつのちいさな突起は、その部分だけは色が濃く鳶色とびいろで、よく見ると先端にかすかにべにをまぶしたような、微妙な色合いで、ドドはその柔らかい宝石をまえにしていっそう興奮しているようだ。指の動きが早くなる。
 最初はひたすら不快でしかなかったラオシンだが、いつしか香油の香と百合の香がまざりあって、それに鼻腔をくすぐられると同時に、四肢の力が抜けていった。
(そ、そんな……)
 舌を噛み切りたいほどの屈辱を受けているというのに、胸のあたりは熱くなり、それが伝染するように下肢がむずむずしてくる。
(こ、こんな……)
 ラオシンの身体の変化をさとったのか、ドドの指の動きはこんどは緩慢かんまんになり、焦らすように、時折なにもせず止まってしまったりする。
 だが刺激をあたえられず、ただつままれているだけだというのに、ラオシンは全身がむずむずしてくる不快なのか快なのかわからない感覚におそわれ身震いした。
(だ、駄目だ……)
 相手にいいようにされている今の状況にラオシンは歯噛みする。ドドの汗や体臭がせまってきて悔し涙があふれそうになった。
 本来なら、王子のラオシンにとってドドのような男はそばにも寄れないような存在だ。仮にラオシンのちかくに来ることがあっても、つねに地に膝をつき顔を伏せておかねばならない身分の者なのだ。いや、それはドドだけではなく、ディリオスもマーメイもリリも、本当ならラオシンが目を向けるにも値しない下層の者たちである。それなのに、そんな連中にいいようにされ、今のあられもない姿をすべて見られているのかと思うと、ラオシンの内に説明のつかない火が灯る。
 その火とは、悔しさであり、屈辱であり、憎しみや怒りでもあり、いらだちでもあり……そして、得体のしれない……疼き。
(ああ……。ああ……! 駄目だ……)
 もはや胸も下肢も燃えるように熱くなってきていることを、ラオシンは朦朧とした意識のなかで認めずにはいられなくなってきた。頬も熱くなり、額にも首にも汗粒が浮かぶ。やや癖のある巻き毛が頬やうなじにからみつき、それは見る者の心を妖しくくすぐる。
「そうだ、ドド、いいぞ。殿下も喜んでいらっしゃる。お顔を見ろ。ほら、気持ち良さそうにされて」
(違う!)
 ラオシンが必死に首をふると、また玉のような汗が薄暗い室内にぼんやりと光り、調教者たちを感動させる。リリの指がのびてきて、高貴な紫蘭しらんの花弁をしとどにぬらす朝露をすくうように、うやうやしくラオシンの汗粒をすくった。
「へへ。俺も頑張るかいがあります。ああ……可愛いおちちだ。吸ってしまいたい。吸ってもいいですか?」
 ラオシンはせいいっぱい首を振ったが、ディリオスの無情な声が頭上で残酷にひびく。
「ああ、いいぞ。思いっきり吸ってやれ」
「へい」
「あっ、ああ!」
 チュッ、チュッ、とふざけたような音が室内にひびき、さらにディリオスの笑い声、ラオシンのうめき声がつづく。
「あっ、ああ……はなせ、はなれろぉ……無礼者」
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