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玉石責め 一
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「わ、私も王族だ。王子の名誉にかけて誓う。自害はせぬと。……だが、だが、これだけは言っておくぞ」
「なんですかな?」
「き、貴様を呪う。死ぬまで、いや死んでからも永劫呪いつづける!」
手負いの獣の咆哮に、さすがにジャハンも一歩ひいたが、こわばった笑みを浮かべる。
「どうぞ、ご自由に。いくらでも呪われるがいい。そんな恰好でなんと言われても……。ふふ、殿下、まだ萎えておりませぬな」
室にかすかに兵たちの失笑がひびく。ジャハンの言うとおり、一糸とてかくすもののないラオシンの身体は、こんな愁嘆場でも熱を秘めていることを晒しているのだ。
「お、おまえは人ではない! け、けだもの!」
「なんとでも、お好きなように」
こわばった顔でどこか無理な笑みをつくると、ジャハンはマーメイに向かって告げた。
「さてと、儂は今日は帰るから、あとのことはおまえたちにまかせたぞ」
「かしこまりました、ジャハン様」
「殿下、では、お元気で。また近いうちに」
そう言って宮廷式のおじぎをするジャハンにむかって、なおもなにか罵声をあびせようとじりじりしているラオシンに、ジャハンは先手を打つような言葉をはなつ。
「そうそう、殿下、殿下がおもらしをしてべそをかいたことも、ちゃんと主人に報告しますので、ご心配なく」
ラオシンは真っ赤になった。
「や、やめろ! そ、そんなことを言うな!」
先ほどの醜態を王太后の耳に入れられたら……、と想像するだけでラオシンは血の気がひいていく。
「だ、だめだ!」
怒りと恐怖で赤くなったり真っ青になったりしながらも、下肢を半ばまで燃えたたせ、左右の男たちに腰をおさえつけられた惨めとしかいいようのない恰好で、懸命に身をよじってラオシンは訴えるが、ジャハンの笑みを深めるばかりだ。
「た、たのむから、止めてくれ!」
生殺しにおかれている苦しさも口惜しさも忘れて、ラオシンは殺してやりたい相手に懇願するような言葉を発したが、相手は聞く耳をもたない。
「ははははは、さぞかし皆様喜ばれることじゃろう。では、また、近いうちに様子を見にきますので」
「ああ、待て!」
無情にもジャハンは去ってしまい、扉が閉じられると、マーメイは残忍な微笑を浮かべた。
「では殿下、この調子で先をつづけましょう。そのままでは苦しいでしょう? ドド、道具を使って殿下を堪能させてあげるがいいわ」
「は!」
ドドは芸をしこまれた犬のように、壁際の棚に走っていき、片手にはラオシンを責める象牙の道具を持って喜々としてもどってくる。
「あ……ああ……」
ラオシンの悲痛な悲鳴のような声がむなしく室にひびいた。
こうして三日目の朝は過ぎていった。
「うっ……」
真紅の天鵞絨を張った四角形の椅子に顔をうずめ、ラオシンは下肢にせまってくる圧迫感と、内側にこもる熱とたたかっていた。額には汗がうかび、口の端からは唾液がもれる。
あいかわらず上半身は裸だが、下半身には長い腰布をまかれている。だが、その純白の布はドドの手で無残にめくりあげられ、ラオシンは下級兵のまえに哀れな姿をさらされていた。
「殿下、どうですか、御気分は?」
「……うう」
問われて答えられるわけもなく、苦し気に肩をふるわせるばかりのラオシンの縛られた手を、ドドは腕から手首まで愛おしげに撫であげた。両手ともに椅子をかかえるようにして玉綱で縛られラオシンは息もたえだえだ。その様子をマーメイとディリオスは立ってながめている。室には四人の雑兵と、あらたに数人の娘たちも入れられている。
「まずは、人目に慣れていかないとね」
ジャハンが帰ってからしばらくは半狂乱になって猛り狂っていたラオシンだが、午後になるとさすがに落ち着くようになり、マーメイはあらたな調教に入った。それはラオシンにとってはさらなる試練でもあった。
「殿下は、どうしても王子という気位がおありだから、人前での行為に抵抗がおありでしょう?」
「お、王子でなくても、こんなことが出来るか!」
わめきちらすラオシンに、黒い光線のような一瞥をくれて、マーメイはしたり顔でつづけた。
「おだまりなさい。以前はどうあれ、今の殿下は男娼の訓練を受ける身。男娼となれば、客の求めに応じてどんなことでもしなければならないのよ。客が服を脱げといわれれば、道の往来でも裸にならなければならない、自慰をしろと言われれば、女たちの前でも、どんなときでも、そうしなければならないのよ」
「そ、そんなことが出来るか!」
それは当然ラオシンが今まで生きてきた世界の価値観や常識でははかりしれない考えだった。縛られてうつ伏せにされた格好で、ラオシンはせいいっぱい、そんな無理なことを言うリリを睨みつける。
「だから、できるようにこうして調教しているのよ。見物人を増やしたのは、こうして人の目に慣らして殿下の羞恥心をなくすためよ。おまえたち、もっと近くで殿下のこのお姿を見るがいいわ」
くすくす笑いながら娘たちはマーメイに言われたようにラオシンの側に寄ってくる。娘たちの数はリリをふくめて四人。彼女たちの足音がせまってくると、ラオシンの視界で黒、黄、赤、青の裾がゆれる。黒い裾はリリだ。、彼女たちのつけている花の香料の匂いがかおってきて、ラオシンに〝異性〟の存在を生々しく感じさせた。
「なんですかな?」
「き、貴様を呪う。死ぬまで、いや死んでからも永劫呪いつづける!」
手負いの獣の咆哮に、さすがにジャハンも一歩ひいたが、こわばった笑みを浮かべる。
「どうぞ、ご自由に。いくらでも呪われるがいい。そんな恰好でなんと言われても……。ふふ、殿下、まだ萎えておりませぬな」
室にかすかに兵たちの失笑がひびく。ジャハンの言うとおり、一糸とてかくすもののないラオシンの身体は、こんな愁嘆場でも熱を秘めていることを晒しているのだ。
「お、おまえは人ではない! け、けだもの!」
「なんとでも、お好きなように」
こわばった顔でどこか無理な笑みをつくると、ジャハンはマーメイに向かって告げた。
「さてと、儂は今日は帰るから、あとのことはおまえたちにまかせたぞ」
「かしこまりました、ジャハン様」
「殿下、では、お元気で。また近いうちに」
そう言って宮廷式のおじぎをするジャハンにむかって、なおもなにか罵声をあびせようとじりじりしているラオシンに、ジャハンは先手を打つような言葉をはなつ。
「そうそう、殿下、殿下がおもらしをしてべそをかいたことも、ちゃんと主人に報告しますので、ご心配なく」
ラオシンは真っ赤になった。
「や、やめろ! そ、そんなことを言うな!」
先ほどの醜態を王太后の耳に入れられたら……、と想像するだけでラオシンは血の気がひいていく。
「だ、だめだ!」
怒りと恐怖で赤くなったり真っ青になったりしながらも、下肢を半ばまで燃えたたせ、左右の男たちに腰をおさえつけられた惨めとしかいいようのない恰好で、懸命に身をよじってラオシンは訴えるが、ジャハンの笑みを深めるばかりだ。
「た、たのむから、止めてくれ!」
生殺しにおかれている苦しさも口惜しさも忘れて、ラオシンは殺してやりたい相手に懇願するような言葉を発したが、相手は聞く耳をもたない。
「ははははは、さぞかし皆様喜ばれることじゃろう。では、また、近いうちに様子を見にきますので」
「ああ、待て!」
無情にもジャハンは去ってしまい、扉が閉じられると、マーメイは残忍な微笑を浮かべた。
「では殿下、この調子で先をつづけましょう。そのままでは苦しいでしょう? ドド、道具を使って殿下を堪能させてあげるがいいわ」
「は!」
ドドは芸をしこまれた犬のように、壁際の棚に走っていき、片手にはラオシンを責める象牙の道具を持って喜々としてもどってくる。
「あ……ああ……」
ラオシンの悲痛な悲鳴のような声がむなしく室にひびいた。
こうして三日目の朝は過ぎていった。
「うっ……」
真紅の天鵞絨を張った四角形の椅子に顔をうずめ、ラオシンは下肢にせまってくる圧迫感と、内側にこもる熱とたたかっていた。額には汗がうかび、口の端からは唾液がもれる。
あいかわらず上半身は裸だが、下半身には長い腰布をまかれている。だが、その純白の布はドドの手で無残にめくりあげられ、ラオシンは下級兵のまえに哀れな姿をさらされていた。
「殿下、どうですか、御気分は?」
「……うう」
問われて答えられるわけもなく、苦し気に肩をふるわせるばかりのラオシンの縛られた手を、ドドは腕から手首まで愛おしげに撫であげた。両手ともに椅子をかかえるようにして玉綱で縛られラオシンは息もたえだえだ。その様子をマーメイとディリオスは立ってながめている。室には四人の雑兵と、あらたに数人の娘たちも入れられている。
「まずは、人目に慣れていかないとね」
ジャハンが帰ってからしばらくは半狂乱になって猛り狂っていたラオシンだが、午後になるとさすがに落ち着くようになり、マーメイはあらたな調教に入った。それはラオシンにとってはさらなる試練でもあった。
「殿下は、どうしても王子という気位がおありだから、人前での行為に抵抗がおありでしょう?」
「お、王子でなくても、こんなことが出来るか!」
わめきちらすラオシンに、黒い光線のような一瞥をくれて、マーメイはしたり顔でつづけた。
「おだまりなさい。以前はどうあれ、今の殿下は男娼の訓練を受ける身。男娼となれば、客の求めに応じてどんなことでもしなければならないのよ。客が服を脱げといわれれば、道の往来でも裸にならなければならない、自慰をしろと言われれば、女たちの前でも、どんなときでも、そうしなければならないのよ」
「そ、そんなことが出来るか!」
それは当然ラオシンが今まで生きてきた世界の価値観や常識でははかりしれない考えだった。縛られてうつ伏せにされた格好で、ラオシンはせいいっぱい、そんな無理なことを言うリリを睨みつける。
「だから、できるようにこうして調教しているのよ。見物人を増やしたのは、こうして人の目に慣らして殿下の羞恥心をなくすためよ。おまえたち、もっと近くで殿下のこのお姿を見るがいいわ」
くすくす笑いながら娘たちはマーメイに言われたようにラオシンの側に寄ってくる。娘たちの数はリリをふくめて四人。彼女たちの足音がせまってくると、ラオシンの視界で黒、黄、赤、青の裾がゆれる。黒い裾はリリだ。、彼女たちのつけている花の香料の匂いがかおってきて、ラオシンに〝異性〟の存在を生々しく感じさせた。
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