25 / 65
玉石責め 二
しおりを挟む
「あ……嫌だ、見るな!」
娘たちの視線が針となって、おおうもののない臀部に突き刺さる。ラオシンは自分は恥辱のために狂うのではないかと本気で疑った。
「あら、でも、殿下、嫌がっていらっしゃるわりには、ここは」
「ああ、言うな! 無礼者!」
マーメイの言葉に打たれたようにラオシンが身をすくませる。午前中だけでも三度ドドによってもてあそばれた身体だというのに、今もまた反応している我が身が恨めしくてたまらない。
マーメイは共犯者めいたふくみ笑いをディリオスに向ける。
(どんどん殿下は開発されてきているわね)
屈辱と恥辱にまみれてなお、いや、それゆえに感応する身体になってきているのだ。おなじくふくみ笑いを返しつつも、ディリオスは自分の頬がこわばっていることを自覚した。
「ねぇ、殿下、殿下は男娼としては恵まれた方なのよ」
マーメイはくだけた口調で説得するように言った。ときどきマーメイがくだけた喋り方をするのは、本音がより強く出ているときだ。
「うう……」
縛られている両手をにぎりしめ、ラオシンは彼女の言葉に呻いた。
「こ、この状況に感謝しろとでもいうのか?」
「わかっていないわねぇ。だから、そんなことが言えるのは、殿下が恵まれていららっしゃる証拠よ。本当の地獄をまだ知らないのですもの」
「こ、これは充分地獄だろう?」
マーメイは首をふった。
「なにも殿下がとくべつ不幸というのでもないのよ。娼館や売春宿に売られてくる者には、もとは良家の子弟だとか、戦に負けて売られてきた異国の王族や貴族の子たちもたくさんいるのよ。このリリだって」
「えっ?」
一瞬、苦痛をわすれてラオシンは苦しい姿勢でリリをさがした。リリはマーメイのそばに立ち、その淡い翡翠をおもわせるような菫色の瞳でラオシンを見つめている。目が合ったとたん、激しい羞恥がラオシンをいたたまれなくした。
「もとは遠国の貴族の娘だったのよ。家が没落して、奴隷商人に売られてきたのを私が市場で見つけて買ったの。故郷の国では伯爵と呼ばれる地位をもつ家の娘だったそうよ。そうやって売られてきたものたちは、体格のいい男なら死ぬまで労働させられたり、女や弱そうな男は娼婦や男娼にされたりして、皆辛い人生を生きているわ。まえにも言ったけれど、兄妹で売られてきた子たちが、客の前でまぐわされたりすることもあれば、獣とつがわせられることもこの世には本当にあるのよ。そんなことがこの王国でおこなわれているなんて、殿下、ご存知だった? ご存知なわけがないわよね。雲のうえの高御座のおそばにいらした方に」
ラオシンは無言だった。
「すくなくとも殿下はそんなおぞましい兄妹遊戯や獣遊戯をさせられないだけマシだと思ってもらえない? この娼館でやとっている娼婦や男娼のなかにも、ひとりで五人の相手を同時にさせられた者もいれば、親の仇の枕席にはべらされた者もいるわ。殿下はご自分が恵まれていることにまだ気づいていないようね」
「そ、そんな……」
なにか言いかえそうとしているラオシンを先んじてマーメイが言葉をつづける。
「なんども言ったように殿下のお身体を傷っつけることはないわ。殿下を買うお客も一流の方で、褥でお相手するのもその方ただ一人のはずよ。殿下はなにも心配することなく、その将来のお相手の愛を受けるために男娼として身体を磨くことだけに専念するといいのよ。ドド、具合はどう?」
マーメイの言葉になにか言い返さねばとあせるラオシンを尻目に、ドドは喜々とした声で返事した。
「すっかりほころんでいますよ」
ラオシンの蕾の開きぐあいをしらべていたドドが、満足そうに自分の指を舐めた。
「リリ、道具を持ってきて。サーリィー、おまえは香油を」
娘たちはそれぞれ指示されたものを手に近寄ってくる。
ラオシンが恐怖に負けて、苦しい姿勢でなんとかリリの手にしているものに目を向けると、リリは宝石箱のような四角形の黒箱をかかえていた。
リリはまるでラオシンの気持ちを読んだかのように、その箱の中身を彼に見えるようにする。
「……」
真紅の繻子張りのうえに並ぶのは、墨に山羊の乳をまぜたような鳩羽色にかがやく三つの球形の石……のようなものと、おなじ材質でこしらえられた張型だった。ラオシンはあえいだ。
「そんな怖がらなくとも殿下、ほら、そんなに大きくないでしょう? この玉なんて私の手に軽くにぎりしめられてしまう程度の大きさじゃない? 蛇紋石で作った特別制よ。さ、ドド」
「へい」
ドドが目をぎらぎらさせて、サーリィーと呼ばれた黄色の羅をまとった娘のさしだす香油の瓶の中身を手にしたたらせ、蛇紋石の道具になすりつける。
「よ、よせ!」
すでにその玉石をどうするかさとってラオシンは真っ青になって身をゆすった。椅子がぎしぎしときしむ。
舌なめずりしながらドドは、壁際の蝋燭の灯りにべたべたと光りかがやく石を、おもむろに、ゆっくりとラオシンのあらわにされている部分にあてがう。
「い、いやだ、するな! ああ! ああ!」
「殿下、そんなに嫌がることないじゃない。その石も道具も高いものなのよ。香油も上等のものよ。殿下にふさわしくすべて最高のものを、というのが依頼主のご命令なの。やっぱり、殿下に気を遣っているからよ」
「な、なにが! ああ、よせ!」
ラオシンは気が狂いそうになって身体をゆすったが、いっそう臀部があらわになり、見物人たちを喜ばせただけだった。
(うう……! おのれ、ジャハン! おのれ、王太后!)
自分をこれほどの淫獄に堕とした憎い仇の顔をとじた瞼のうらに思い描き、ラオシンはふたりの姿に憎悪をたたきつけた。だが、そのあいだにもドドの指はゆっくりと、確実にうごいてラオシンの蕾に石の玉をおしこんでいく。
「どうです、殿下? 重みがあるからこの量感がたまらないでしょう?」
マーメイの揶揄にラオシンは答えることもできない。
「あ……ああ!」
「さ、あとふたつ、がんばってもらうわよ、殿下」
ラオシンは堪えきれなくなったのか、啜り泣いた。昼前にいったん泣いてしまったせいで、涙腺が弱くなったようだ。幼児のように泣きじゃくりだしたラオシンを、ディリオスは冷めた目で見ながら、唇を噛む。
娘たちの視線が針となって、おおうもののない臀部に突き刺さる。ラオシンは自分は恥辱のために狂うのではないかと本気で疑った。
「あら、でも、殿下、嫌がっていらっしゃるわりには、ここは」
「ああ、言うな! 無礼者!」
マーメイの言葉に打たれたようにラオシンが身をすくませる。午前中だけでも三度ドドによってもてあそばれた身体だというのに、今もまた反応している我が身が恨めしくてたまらない。
マーメイは共犯者めいたふくみ笑いをディリオスに向ける。
(どんどん殿下は開発されてきているわね)
屈辱と恥辱にまみれてなお、いや、それゆえに感応する身体になってきているのだ。おなじくふくみ笑いを返しつつも、ディリオスは自分の頬がこわばっていることを自覚した。
「ねぇ、殿下、殿下は男娼としては恵まれた方なのよ」
マーメイはくだけた口調で説得するように言った。ときどきマーメイがくだけた喋り方をするのは、本音がより強く出ているときだ。
「うう……」
縛られている両手をにぎりしめ、ラオシンは彼女の言葉に呻いた。
「こ、この状況に感謝しろとでもいうのか?」
「わかっていないわねぇ。だから、そんなことが言えるのは、殿下が恵まれていららっしゃる証拠よ。本当の地獄をまだ知らないのですもの」
「こ、これは充分地獄だろう?」
マーメイは首をふった。
「なにも殿下がとくべつ不幸というのでもないのよ。娼館や売春宿に売られてくる者には、もとは良家の子弟だとか、戦に負けて売られてきた異国の王族や貴族の子たちもたくさんいるのよ。このリリだって」
「えっ?」
一瞬、苦痛をわすれてラオシンは苦しい姿勢でリリをさがした。リリはマーメイのそばに立ち、その淡い翡翠をおもわせるような菫色の瞳でラオシンを見つめている。目が合ったとたん、激しい羞恥がラオシンをいたたまれなくした。
「もとは遠国の貴族の娘だったのよ。家が没落して、奴隷商人に売られてきたのを私が市場で見つけて買ったの。故郷の国では伯爵と呼ばれる地位をもつ家の娘だったそうよ。そうやって売られてきたものたちは、体格のいい男なら死ぬまで労働させられたり、女や弱そうな男は娼婦や男娼にされたりして、皆辛い人生を生きているわ。まえにも言ったけれど、兄妹で売られてきた子たちが、客の前でまぐわされたりすることもあれば、獣とつがわせられることもこの世には本当にあるのよ。そんなことがこの王国でおこなわれているなんて、殿下、ご存知だった? ご存知なわけがないわよね。雲のうえの高御座のおそばにいらした方に」
ラオシンは無言だった。
「すくなくとも殿下はそんなおぞましい兄妹遊戯や獣遊戯をさせられないだけマシだと思ってもらえない? この娼館でやとっている娼婦や男娼のなかにも、ひとりで五人の相手を同時にさせられた者もいれば、親の仇の枕席にはべらされた者もいるわ。殿下はご自分が恵まれていることにまだ気づいていないようね」
「そ、そんな……」
なにか言いかえそうとしているラオシンを先んじてマーメイが言葉をつづける。
「なんども言ったように殿下のお身体を傷っつけることはないわ。殿下を買うお客も一流の方で、褥でお相手するのもその方ただ一人のはずよ。殿下はなにも心配することなく、その将来のお相手の愛を受けるために男娼として身体を磨くことだけに専念するといいのよ。ドド、具合はどう?」
マーメイの言葉になにか言い返さねばとあせるラオシンを尻目に、ドドは喜々とした声で返事した。
「すっかりほころんでいますよ」
ラオシンの蕾の開きぐあいをしらべていたドドが、満足そうに自分の指を舐めた。
「リリ、道具を持ってきて。サーリィー、おまえは香油を」
娘たちはそれぞれ指示されたものを手に近寄ってくる。
ラオシンが恐怖に負けて、苦しい姿勢でなんとかリリの手にしているものに目を向けると、リリは宝石箱のような四角形の黒箱をかかえていた。
リリはまるでラオシンの気持ちを読んだかのように、その箱の中身を彼に見えるようにする。
「……」
真紅の繻子張りのうえに並ぶのは、墨に山羊の乳をまぜたような鳩羽色にかがやく三つの球形の石……のようなものと、おなじ材質でこしらえられた張型だった。ラオシンはあえいだ。
「そんな怖がらなくとも殿下、ほら、そんなに大きくないでしょう? この玉なんて私の手に軽くにぎりしめられてしまう程度の大きさじゃない? 蛇紋石で作った特別制よ。さ、ドド」
「へい」
ドドが目をぎらぎらさせて、サーリィーと呼ばれた黄色の羅をまとった娘のさしだす香油の瓶の中身を手にしたたらせ、蛇紋石の道具になすりつける。
「よ、よせ!」
すでにその玉石をどうするかさとってラオシンは真っ青になって身をゆすった。椅子がぎしぎしときしむ。
舌なめずりしながらドドは、壁際の蝋燭の灯りにべたべたと光りかがやく石を、おもむろに、ゆっくりとラオシンのあらわにされている部分にあてがう。
「い、いやだ、するな! ああ! ああ!」
「殿下、そんなに嫌がることないじゃない。その石も道具も高いものなのよ。香油も上等のものよ。殿下にふさわしくすべて最高のものを、というのが依頼主のご命令なの。やっぱり、殿下に気を遣っているからよ」
「な、なにが! ああ、よせ!」
ラオシンは気が狂いそうになって身体をゆすったが、いっそう臀部があらわになり、見物人たちを喜ばせただけだった。
(うう……! おのれ、ジャハン! おのれ、王太后!)
自分をこれほどの淫獄に堕とした憎い仇の顔をとじた瞼のうらに思い描き、ラオシンはふたりの姿に憎悪をたたきつけた。だが、そのあいだにもドドの指はゆっくりと、確実にうごいてラオシンの蕾に石の玉をおしこんでいく。
「どうです、殿下? 重みがあるからこの量感がたまらないでしょう?」
マーメイの揶揄にラオシンは答えることもできない。
「あ……ああ!」
「さ、あとふたつ、がんばってもらうわよ、殿下」
ラオシンは堪えきれなくなったのか、啜り泣いた。昼前にいったん泣いてしまったせいで、涙腺が弱くなったようだ。幼児のように泣きじゃくりだしたラオシンを、ディリオスは冷めた目で見ながら、唇を噛む。
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる