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宴の前 三
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最近、すっかり大人しく従順になってきたラオシンに安心していたドドは、びっくりしてあわてて抑えこもうとするが、手負いの獣のようなラオシンは、やせ細った身体のどこにこんな力があるのかと思うほどの怪力を出し、ドド一人では止めれなかった。
「ぐぅぅぅぅ! や、やめろぉ」
ラオシンは力いっぱいジャハンの首を絞める。
マーメイやジャハギルが必死にラオシンをジャハンからはなそうとするが、怒りに力を得たラオシンを止めることは難しく、リリはあわてて室の外にいる兵を呼びに行った。
「何をしているんだ!」
駆けつけてきたディリオスによって、ラオシンはひきちぎられるように、憎いジャハンから引きずりはなせれられ、ディリオスとドドによって床におさえこまれてしまう。
「くぅ……!」
床にラオシンの無念の吐息がこぼれる。
「ああ、びっくりした」
ジャハギルが自分の胸を撫で、マーメイはジャハンを気遣った。
「ジャハン様、大丈夫ですか?」
うずくまっているジャハンの、生成り色の衣の上から、その突きでた背を撫でそうになり、マーメイは一瞬、嫌悪に黒い眉を寄せていた。
触れたくないのだ。加虐趣味のあるマーメイですら、ジャハンの陰湿な苛めかたには、さすがに眉をしかめさせられるものを感じたのだろう。だが、いそいで顔をつくると、さも心配そうにジャハンをいたわるふりをする。
「くぅぅぅぅ! 死ぬかと思ったぞ。とりあえず、早く着付けをしろ。殿下も一刻もはやく御母上の御召し物を身にまといたいじゃろうからな」
「はあ」
やはりそれは止める気はないらしい。
「ディリオス、ドド、手伝ってちょうだい。あなたたちは身体をおさえつけていて。ジャハギル、殿下のお腰の布をとって」
マーメイの言葉にラオシンは身体を揺さぶらせた。
「い、嫌だ、嫌だ、やめろ!」
しばらくはなるべく忘れるようにと自制していた羞恥の感情が火を吹き、ジャハンの目に痛いほどあおられる。
泣いて嫌がるラオシンを男たちはおさえつけ、ジャハンの見ているまえで亡母の着物をまとわせようとする。
「あ……ああ」
マーメイが下帯を手にラオシンに近づくと、しゃがれた声がわりこむ。
「待て、そのまえに仕置きをしておくか。殿下の尻をこちら向けさせろ」
矢で射抜かれた兎のようにラオシンの身体が跳ねる。
「さ、はようせい」
「う……うう」
男たちの手によって床にはいつくばらせられたラオシンは、発狂寸前である。ジャハンのまえに尻をつきだす格好を強いられ、あらわになった腰をさらされる。
はぁ、はぁ、と熱い獣のような息がそこにかかると、ラオシンは二度と開くまいというように瞼をきつく閉めた。
「いひひひひひひ」
室に、肉を打つ音がひびく。
一回、二回、三回……。
きっちり五回つづくと、ジャハギルはラオシンからはなれた。
ラオシンは嗚咽することはどうにか堪えらえたが、涙はとめどなく頬を流れる。
男たちに腕をひっぱられて、よろよろと立ちあがらせられたラオシンを見、またジャハンは陰険な笑いを見せた。
「おやおや、殿下、また泣かれて。化粧しなおさねばな。……ひひひひ、殿下はすっかり女になられてしまったようじゃなぁ。それもとびきりの美女。今宵は、この美女にとうとう花婿があらわれるというものじゃ。館で女の修業をした甲斐があったというものじゃな。ぐひひひひひ」
「あら、素敵。どんなお婿さんが来るのかしらね?」
ジャハギルがおもねるように言う。
「さて、さて、でっぷり太った商人か、人肉も食うという異国の武人か……。『悦楽の園』で何十年に一度の上玉が売りに出されると手下たちに噂をひろめるよう命じておいたからのぅ。今日は客もおおいぞ。手抜かりはないな?」
「はい。お酒も料理も最高のものを用意しておりますわ。他に集めた踊り子や処女たちも上物ばかり。その最後に殿下を出せば、客は大喜びでしょう」
マーメイが女主らしく話を合わせているあいだもラオシンは惨めな姿をさらしつづけているしかない。前だけでもおおってもらいたいが、それは母の身に着けていたものなのだ。それをまとわせられることを想像すると、屈辱と背徳感に頭から煙が出そうだ。
これほど陰惨で下卑た苛め方を思いつくジャハンの残忍性に、あらためてラオシンは血を吐くほどの怒りと憎しみをおぼえた。
(か、かならずこの男に、こいつらに復讐してやる!)
それまでは、やはり死ねない。死ぬのならば、ジャハンを殺した後だとラオシンは決意をあらたにした。
「ぐぅぅぅぅ! や、やめろぉ」
ラオシンは力いっぱいジャハンの首を絞める。
マーメイやジャハギルが必死にラオシンをジャハンからはなそうとするが、怒りに力を得たラオシンを止めることは難しく、リリはあわてて室の外にいる兵を呼びに行った。
「何をしているんだ!」
駆けつけてきたディリオスによって、ラオシンはひきちぎられるように、憎いジャハンから引きずりはなせれられ、ディリオスとドドによって床におさえこまれてしまう。
「くぅ……!」
床にラオシンの無念の吐息がこぼれる。
「ああ、びっくりした」
ジャハギルが自分の胸を撫で、マーメイはジャハンを気遣った。
「ジャハン様、大丈夫ですか?」
うずくまっているジャハンの、生成り色の衣の上から、その突きでた背を撫でそうになり、マーメイは一瞬、嫌悪に黒い眉を寄せていた。
触れたくないのだ。加虐趣味のあるマーメイですら、ジャハンの陰湿な苛めかたには、さすがに眉をしかめさせられるものを感じたのだろう。だが、いそいで顔をつくると、さも心配そうにジャハンをいたわるふりをする。
「くぅぅぅぅ! 死ぬかと思ったぞ。とりあえず、早く着付けをしろ。殿下も一刻もはやく御母上の御召し物を身にまといたいじゃろうからな」
「はあ」
やはりそれは止める気はないらしい。
「ディリオス、ドド、手伝ってちょうだい。あなたたちは身体をおさえつけていて。ジャハギル、殿下のお腰の布をとって」
マーメイの言葉にラオシンは身体を揺さぶらせた。
「い、嫌だ、嫌だ、やめろ!」
しばらくはなるべく忘れるようにと自制していた羞恥の感情が火を吹き、ジャハンの目に痛いほどあおられる。
泣いて嫌がるラオシンを男たちはおさえつけ、ジャハンの見ているまえで亡母の着物をまとわせようとする。
「あ……ああ」
マーメイが下帯を手にラオシンに近づくと、しゃがれた声がわりこむ。
「待て、そのまえに仕置きをしておくか。殿下の尻をこちら向けさせろ」
矢で射抜かれた兎のようにラオシンの身体が跳ねる。
「さ、はようせい」
「う……うう」
男たちの手によって床にはいつくばらせられたラオシンは、発狂寸前である。ジャハンのまえに尻をつきだす格好を強いられ、あらわになった腰をさらされる。
はぁ、はぁ、と熱い獣のような息がそこにかかると、ラオシンは二度と開くまいというように瞼をきつく閉めた。
「いひひひひひひ」
室に、肉を打つ音がひびく。
一回、二回、三回……。
きっちり五回つづくと、ジャハギルはラオシンからはなれた。
ラオシンは嗚咽することはどうにか堪えらえたが、涙はとめどなく頬を流れる。
男たちに腕をひっぱられて、よろよろと立ちあがらせられたラオシンを見、またジャハンは陰険な笑いを見せた。
「おやおや、殿下、また泣かれて。化粧しなおさねばな。……ひひひひ、殿下はすっかり女になられてしまったようじゃなぁ。それもとびきりの美女。今宵は、この美女にとうとう花婿があらわれるというものじゃ。館で女の修業をした甲斐があったというものじゃな。ぐひひひひひ」
「あら、素敵。どんなお婿さんが来るのかしらね?」
ジャハギルがおもねるように言う。
「さて、さて、でっぷり太った商人か、人肉も食うという異国の武人か……。『悦楽の園』で何十年に一度の上玉が売りに出されると手下たちに噂をひろめるよう命じておいたからのぅ。今日は客もおおいぞ。手抜かりはないな?」
「はい。お酒も料理も最高のものを用意しておりますわ。他に集めた踊り子や処女たちも上物ばかり。その最後に殿下を出せば、客は大喜びでしょう」
マーメイが女主らしく話を合わせているあいだもラオシンは惨めな姿をさらしつづけているしかない。前だけでもおおってもらいたいが、それは母の身に着けていたものなのだ。それをまとわせられることを想像すると、屈辱と背徳感に頭から煙が出そうだ。
これほど陰惨で下卑た苛め方を思いつくジャハンの残忍性に、あらためてラオシンは血を吐くほどの怒りと憎しみをおぼえた。
(か、かならずこの男に、こいつらに復讐してやる!)
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