昭和幻想鬼譚

文月 沙織

文字の大きさ
9 / 190

秘色の屋敷 三

しおりを挟む
 と言う母の微笑には、自分が美しいことを知っている女のほのかな驕りと、夫と仲が良すぎる美しい義妹へのかすかな嫉妬がふくまれていて、時折望をげんなりさせることもある。
「望君は面白いことをいうね」
 微笑む香寺の、白シャツのはざまの首筋はなお白く、望は妙な心持ちになる。
「お祖父さまのご様子をうかがってもいいでしょうか?」
 この屋敷にいるときは、日に一度は祖父に挨拶することになっている。それを祖父自身がのぞんでおり、命令しているといっても過言ではなく、祖父が病床にあるときも欠かしたことはない。
「そうだね……。挨拶できるかどうか、廊下から都さんにうかがってみるといい」
 うなずいて、望は黒光りする廊下を進んだ。

 一階の東の奥になる座敷が祖父の室となる。ちょうど都が下女をしたがえて出てきた。下女は地元の農家の娘で住み込みで働いており、未婚だと聞いている。まだ娘といっていいぐらいの年齢だろうが、伯爵の着替えの着物の入った籠をかかえている両腕は、田舎女らしく太く老けて見える。
 都が襖をしずかに閉めて、彼女に告げた。
ふみ、行きなさい」
 はい、とうなずいて彼女は望の横をとおる。一瞬、望をうかがうように見る目には、好奇がにじみでているが、望は気にもとめない。
「お祖父さまのご様子はどう?」
「今少しまえにお休みになられましたよ」
 都がそう答えたのとほとんど同時に、しわがれた声が奥の間から響いてきた。
「いや、起きとるぞ。望、入ってこい」
 都の手によって、鶴亀の描かれた襖が別れ、薄暗い座敷が見える。
 布団の上にだるそうに、白い寝巻すがたの老人が上半身を起こしていた。
「失礼します」
 望は膝行で祖父の側まで進んだ。
 近づくと、老人特有の匂いが鼻をつくが、顔に不快感を出さないように努めた。昔から、祖父は望をひどく可愛がってくれた。
(儂は老いた。この子の行く末を見れないのが残念じゃ)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

身体検査その後

RIKUTO
BL
「身体検査」のその後、結果が公開された。彼はどう感じたのか?

処理中です...