昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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秘色の屋敷 三

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 と言う母の微笑には、自分が美しいことを知っている女のほのかな驕りと、夫と仲が良すぎる美しい義妹へのかすかな嫉妬がふくまれていて、時折望をげんなりさせることもある。
「望君は面白いことをいうね」
 微笑む香寺の、白シャツのはざまの首筋はなお白く、望は妙な心持ちになる。
「お祖父さまのご様子をうかがってもいいでしょうか?」
 この屋敷にいるときは、日に一度は祖父に挨拶することになっている。それを祖父自身がのぞんでおり、命令しているといっても過言ではなく、祖父が病床にあるときも欠かしたことはない。
「そうだね……。挨拶できるかどうか、廊下から都さんにうかがってみるといい」
 うなずいて、望は黒光りする廊下を進んだ。

 一階の東の奥になる座敷が祖父の室となる。ちょうど都が下女をしたがえて出てきた。下女は地元の農家の娘で住み込みで働いており、未婚だと聞いている。まだ娘といっていいぐらいの年齢だろうが、伯爵の着替えの着物の入った籠をかかえている両腕は、田舎女らしく太く老けて見える。
 都が襖をしずかに閉めて、彼女に告げた。
ふみ、行きなさい」
 はい、とうなずいて彼女は望の横をとおる。一瞬、望をうかがうように見る目には、好奇がにじみでているが、望は気にもとめない。
「お祖父さまのご様子はどう?」
「今少しまえにお休みになられましたよ」
 都がそう答えたのとほとんど同時に、しわがれた声が奥の間から響いてきた。
「いや、起きとるぞ。望、入ってこい」
 都の手によって、鶴亀の描かれた襖が別れ、薄暗い座敷が見える。
 布団の上にだるそうに、白い寝巻すがたの老人が上半身を起こしていた。
「失礼します」
 望は膝行で祖父の側まで進んだ。
 近づくと、老人特有の匂いが鼻をつくが、顔に不快感を出さないように努めた。昔から、祖父は望をひどく可愛がってくれた。
(儂は老いた。この子の行く末を見れないのが残念じゃ)
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