昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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秘色の屋敷 四

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 と幼子だった望の頭を撫でて嘆いてみせては、周囲から否定され、長寿を祈られ、その甲斐あってか、今年も庭の躑躅の盛りを、かろうじて老いた目に映している。
 だが、さすがに来年の躑躅を見ることはないだろうというのは、医者をはじめ周囲の暗黙の了解とするところだった。
「お祖父さま、お加減はいかかですか?」
 祖父はその問いには答えず、目を細める。
「相変わらず可愛い子じゃ。今年、いくつになったかな?」
 祖父はこの問いを幾度となく繰り返す。やや閉口しながらも、望は笑顔ではきはきとこたえた。
「十五です、お祖父さま。もう二ヶ月すれば十六になります」
「さようか」
 祖父は僧のようにつるつるとした頭を撫でた。聞いた話では、禿げるまえに剃ったのだそうだ。
「ついこのまえ七五三をすませたと思っておったが……」
 乾いた笑い声をあげた。
 若い頃から柔道や剣道などの武芸や馬術の鍛錬を欠かさなかっただけあって、老いさらばえても、祖父にはどこか矍鑠としたところがあり、それだけに望は、けっして口には出せないが心の内で、祖父の安らかな臨終の日が一日でも早く来ることを祈っていた。
(お祖父さまが、これ以上老いていくのを見たくない……)
 老いさらばえていく祖父を見るのが辛い……という想いゆえだ。だが、胸の奥にはべつの想いもあった。
「本当に望は美しい子じゃな。忠や勇、仁も子どもの頃は可愛かったが、望は格別可愛いのう。儂の身内で一番の器量良しはきよだと思っておったが、今の望のほうがいっそう可愛いのう」
 清というのは、叔母のことである。
 望は曖昧な笑みをうかべ、身体をこわばらせた。背に緊張が走る。
「ほんとうに、可愛い子じゃ……」
 きたー―。
 望は我知らず身構える。
 ひからびた手が、行儀よく膝の上に置かれている望の手に触れてくる。
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