昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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雨夜の帰還 四

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 だが望は、内心いささか面白くない。
 先日、父が、「勇たちもそろそろ身を固めさせないとな」と言っていたのが思い出されたのだ。
 よもや、今回の帰国は嫁とりのためかと思うと、心ざわめく。
「さ、とにかく食堂へ。すぐにお二人のお食事も用意いたします」
 四人が廊下を進むと、ちょうど香寺が食堂から出てきた。
「ああ、お二人とも今日帰ってこられたのですね」
 勇が陽気にこたえた。
「おお、〝先生〟も元気そうだな」
 二人は面識がある。二、三度、東京の家で顔を合わせたことがあるのだ。勇たちが大陸へ渡るまえのことだが。
「先生はやめてください」
 香寺が困ったように笑う。
「いやいや、立派な先生だ。以前見たときは、まだひょろっとした書生殿だったが、今や立派な学士さんだ」
「そんな……私は半人前の未熟者ですよ。未だに将来も定まらない」
 廊下を歩きながら、仁が香寺にたずねた。
「御母上の体調が良くないとか?」
「ええ。まあ……」
 香寺が曖昧にうなずく。
 仁の家の乳母は、香寺と同郷であり、その縁から香寺の実家のことを聞いているらしい。
(香寺の家は、田舎ではそこそこの名家なのだが、親父さんが事業に失敗してな)
 仁から聞いた話を以前、勇叔父が望に手紙で伝えたことがある。
(あれはなかなかの努力家だぞ。家運がかたむいていくなかで育っても愚痴ひとつこぼさず、人に使われる身になっても悲観せず、自力で学費を稼いでいるのだからな)
 望は香寺に同情したものの、自分には、なにひとつそんな身の上を話さない香寺や、仁から疎外されている気がして寂しく思った。
(それは、僕は子どもだけれど)
 こうして集まっていると、自分だけが年齢のせいで蚊帳の外に置かれている気がしてしまう。
 食堂で席に着くと、すぐさま都の指示で増やされた料理をかこんで、やっと一同は食事を取ることになった。
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