昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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雨夜の帰還 六

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「勇、望君のまえだぞ」
 仁が遠慮がちに言うと、忠は豪快に笑った。
「いや、俺は親父がいつまでも元気だと言っているのだ。あれは、まだまだくたばらんだろう」
「勇さんは本当に豪傑ですね」
 香寺の微笑には、あきらめと羨望が入りまじっている。
「それはそうと、勇様、今夜の寝室は、西の間でよろしいですか? 仁さまと同じお部屋になさいますか? それとも別々がよろしゅうございますか?」
 都が話題を変えるように問うた。
「同じ部屋でいいぞ。帰国初日は、ゆっくりと語り合いたいたからな」
「かしこまりました。では文に申し付けて、西の間にお布団をおはこびいたします」
 勇と仁が同じ室に寝る――。
 そのことが、なぜか望の胸を一瞬きりりとしめつけ、次にはざわめつかせる。

 いったん小降りになったかと思った雨は、深夜になるといっそう激しくなった。
 望は眠れない。時間だけが過ぎていく。
 ぼんやりと闇のなかに浮かぶ天井の木目を見ていた。
 今頃、勇と仁は二人だけでどんな時間を過ごしていいるのか……。思うと胸が焼けそうだ。
 それは不思議な感情で、痛いようなもどかしいような、高揚するような、なんとも説明つかないものだった。
 望が起居している室から、二人の場所までには廊下を歩いてすこしかかる。ここからは二人の声も気配も当然聞こえもせず感じられもしない。おなじ屋根の下にいても、それこそ海の向こうにいるほど離れている気がする。
 中庭をはさんで向かいになる二人の室では、美しい二人の男ざかりの男が、その身体を褥に横たわらせて、いったいどんな夢を見ていることやら。
 望は、もういてもたってもいられない。
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