昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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遥かな闇から 五

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 仁様にとっては軍を辞められて、旦那様のお仕事のお手伝いをなされた方がよろしいかもしれません。あら、わたくしといたしましたら、余計なことを申しました。
 望様……、
 都の目はきつくなった。
 こんな話を、あえてまだ幼いような望様にお伝えするのは、このことを胸にとどめておいてほしいからでございます。
 この先、まちがっても女にのめりこんで相馬家の名に泥を塗るようなことは、けっしてなさらないでくださいまし。
「う、うん」
 望は子どものように、つたない返事をしていた。
 本当に、本当に……お願いします。
 いつの間にか、縁側には黄昏がしのびこんできており、室内に、やわらかな黄金色の陽に茜色を混ぜたような、なにかしらやるせない光が垂れ込めてきている。
 真摯な目で語る都は、いつになく怖い顔になってきた。
 ――望様が、この先、万が一にも女に溺れて世間に顔むけできないようなことをなさいましたら、この都は、喉を突いて死にますよ。
 都は乙女椿の花を自分の首に向けた。指で己の首を指し示したのが、手に花を持っていたので、そうなったのだ。だが、紅い乙女椿が首あたりに触れた瞬間、都の首から鮮血があふれたように見えて、望はひやりとした。
 教育というよりも脅迫である。
 望は必死に首を横に振った。
「しないよ。絶対しない。約束する。女の人に溺れるようなことは絶対にしない」
 女に溺れるような愚かな真似は決してしないだろう。これに関しては望には確信がある。
 女には、だ。

 望は都をのこして廊下へ出、自分の部屋へ戻ろうとした。
 薄暗い廊下を歩いていると、ふと、異国の妓楼という場所はどんなところなのだろうと想像してみる。日本の遊女屋女郎屋と呼ばれるところと似ているのだろうか。もちろん、行ったことはないが。
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