昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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調教初夜 十

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「雨沼さん、本当にあなたは時代の梟雄きょうゆうですね」
 勇は呆れたように笑った。
「おや、どうしたのだ、先生? そんなに尻をもじもじさせて」
 うつぶせになっていた香寺だが、戒められているわけではない。惨くも尻に突き刺さったような道具はそのままだが、抜くことをゆるされず、放置されているのだ。
「うう……」
 なまじ手が自由なだけに辛いのだろう。抜きたくて堪らないが許されず、必死に羞恥と、たかまってくるもどかしさに耐えているのだ。
「くぅ……」
 聞こえるはずのない、香寺の吐息のような声が望の耳に甘く響いてくる。
「あっ……、ああ」
 最初は苦悶の声でしかなかったが、いつしか甘いものを含みはじめていた。
 抜きたくてたまらなかった道具が、やがて別の想いを引き起こすようになってきているのだ。
 香寺の焦燥感が伝わってくるように、望もそわそわしてくる。
 自由な手を、少し伸ばせば、自分で道具を扱うことができるが、香寺の潔癖さと自尊心がそれを許さない。
 香寺でなくとも、そんなことはできない。できることではない。
 しかし、そうなると、蛇の生殺しのような状態がつづくことになる。香寺にしては、どのみち苦痛の時間は終わらないのだ。
 どれぐらい時間がたったか。
 長いようで、実際にはそれほどではなかったかもしれない。
 だが、香寺の自尊心を突き崩すには充分な時間だったようだ。
 香寺はとうとう身体を揺らして、辛そうな声をあげた。
「……い、勇さん……!」
「ん? どうした先生?」
 酔いをにじませて勇がふざけた声で問う。
 香寺は苦しそうに身をよじる。
「お、お願いです……!」
「なんだ?」
 わざととぼけた言い方をする勇を、香寺でなくとも憎いと思うだろう。
 だが、悔しいことに、立派な身体を軍服に身をつつんだ勇は、その横顔も、胡坐をかいて座っている姿も、香寺を笑いながら平然と杯をあげる様子も、男らしく凛々しい美丈夫である。現代の華冑かちゅう界において、これほどの男はいないだろう。
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