昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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美しいとき 三

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 それが雨沼の狙いならば、見事に当たったといえるだろう。
 望は今日、ここへ来る前に見た香寺の顔や姿を思い出す。
 雨沼の屋敷へ行くと告げたときの、怯えた顔。身をかすかに震わせてうつむく様は、なまめかしいことこのうえない。
 顔から血の色をなくした香寺を、望は抱きしめ、頬に接吻した。
 一応、家人の目をはばかって、けっして人前ではしないが、実際には、まったくもう自分の愛人、妾のように望は香寺を扱っている。
 父は、うっすら事情を察しているのか、時折苦い顔を見せるが、それ以上はなにも言わない。若いときのお遊びだとみなしているのだろう。
 父の様子に敏感に気づいたのか、女中頭の都が訝しむような視線を向けてくるが、こちらも何も言わない。
「みやげだ、受け取れ」
 雨沼は無造作に長方形の桐箱を畳の上におき、望のまえにすすめる。
「ありがとうございます。嬉しいな。なんなのですか?」
「開けてみるといい」
 望がわくわくしながら開けてみると、そこには紫の繻子が見える。ゆっくりと布をまくってみると、出てきたのは、想像どおり、淫らな道具だった。
 先日雨沼がくれたものとは材質がちがっているのか、象牙だった。
 持つところが長く、見た目には短刀のようにも見える。刀の鍔のように丸く張り出しているところがあり、先端は茸の形をおもわせる。道具には丸みのある襞のようなものが幾つも彫られている。柄のところが長いので、一見大きく見えたが、実際に使う道具の部分は、望の目にもそう大きくはない。
「その襞がな、良いらしいぞ。刺激がたまらんのだそうだ。それで、今晩あたりにも香寺君を喜ばせてやるとよい」
 雨沼はひどくいやらしい笑い方をする。それを、もう嫌だと思うことも望はなくなっていた。
「楽しみですね。ありがとうございます」
 布で包みなおし、望はうやうやしいともいえる手つきで、その道具を箱にしまった。
「今夜が待ち遠しいな」
「俺も加えてくれないか?」
 本気か冗談かわからないような口調で勇が言うと、望は、このときだけは年相応にあどけない仕草で首を横に振った。
「駄目ですよ。香寺先生は恥ずかしがり屋さんなんですから。勇さんがいると、きっと緊張して楽しむどころじゃなくなってしまいます」
「それなら、ばれないように、こっそり覗かせてくれ」
「しょうのない人ですね」
「なんだよ? おまえにも覗かせてやったではないか?」
 望と勇が笑い合うのを見て、雨沼がうらやましげに呟いた。
「若いな」
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