昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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黄昏の季節 十

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 これほど貶め、もてあそび、屈辱に泣かせても、それでも自分は香寺に幻滅するどころか、ますます執着し、欲しくなるのだ。
 仁への積年の想いとはべつに、香寺にはげしい恋着――と呼んでいいかどうか望自身いまだに迷うのだが――を、たしかに感じている。
(でも仁さんへの気持ちが消えたわけじゃない)
 仁のことも好きで、香寺のことも好きなのだ。べつに悪いことでも、おかしなことでもないと、最近望は割り切るようになっていた。
(そうさ。古典物語の源氏は、継母藤壺の宮を愛し、紫の上を愛し、あまたの女人を愛したじゃないか。男は同時に複数の人を愛することができるのだ。地位や金のある男なら当然のことだ)
 不遜にもそんなことを望は思っていた。
「先生、どうですか? 指一本だと、焦れったいでしょう?」
「くぅ……」
 椅子の座面に押し付けている横顔が悔しげにゆがむ。望はぞくぞくしてくる。
 指に感じる暖かさを楽しみながら、ゆっくりと、指を動かす。
「はぁっ……!」
 つらそうに喘ぐその横顔の美しさと、香寺の全身からたちのぼる色気に酔いしれながら、ゆっくりと指をひねってみる。
「うう……ん」
 指の動きに合わせて香寺が背を伸ばしたりねじったりする姿のあまりの妖しさ。香寺がもがくに合わせて、彼を縛っている紐も揺れ、それがまたなんとも淫靡な雰囲気をかもしだす。見ているだけで鼻血が出そうだった。
 椅子の背もたれの上から香寺の手首に伸びている紐を片方の指で弾いてみた。まるで楽器の弦のようで、触れると、香寺がくぐもった声をあげる。
「はぁ……、ああっ……。も、もう、やめろ……、たのむ、望、止めてくれ」
「何故ですか? 気持ちいいでしょう? どうですか、これは?」
 右手の人差し指に力を入れて動かす。別の手は紐を弾いたりする。
「はぁぁぁっ……!」
 ぴくぴくと動く男の下半身がおもしろく、望は香寺のひきしまった尻を撫でた。
「よ、よせ!」
「先生、可愛いですよ」
 望は貪婪な中年男のように笑い、ぎゃくに香寺の方が初々しい乙女のように恥じらう。
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