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再生の日 四
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しどろもどろになって、望は弁解めいた言葉を吐いた。そうしているあいだにも頭のなかには思い出したくない記憶が蛇がとぐろを巻くように、ずるずるとこみあげてきて、望を圧倒する。
玉琴は祖父の贔屓の芸者であり、別荘にもよく出入りしていた。
そして、幼かった望は、あるとき祖父とこの女の男女の秘めごとを見てしまったのだ。
いま、目の前で艶然と笑っているこの美しい女によって、望は人間のなかに獣がひそんでいることを教えられたのだ。
幼かった望の目に、二人の淫らな姿は強烈な印象となって焼き付いて、ふだんは忘れていても、消えることはない。
肉付きのよい女の太ももが、祖父のしなびた腰にからみついていた姿は、望を身震いさせる。
朝の爽やかな空気のなか、あの淫蕩きわまりない光景が目によみがえってきて、望は背に嫌悪をおぼえた。
また、そんな潔癖さが、まだ自分に残っていることがまた意外だった。
「あらあら、どうなさったんでございますか、相馬の坊ちゃま? あたくしの顔になにかついていますかねぇ?」
女はやや素の口調になって笑った。両手には、手土産なのか見舞いの品なのか、小豆色の風呂敷につつまれた小さな荷物がある。少しも重そうではない。草履の上の裾は汚れておらず、ふらりと近所におつかいに出てきたようだ。
「あの……、ここまでどうやって来たんですか?」
望の問いに、女はすらすら答えた。
「近くまで知り合いに車で送ってもらいましたの。坊ちゃまが見えたので、こんなところで何をしていらっしゃるかしらと思いまして、追いかけてきましたのでございますわ。その知り合いはもう帰りましたけれど……」
「そ、そうなんですか。あ、荷物、持ちましょうか?」
一応気をつかって言うと、女は頭を横に振る。
「とんでもございません。華族の若様に荷物持ちをさせるなど。ほほほほ」
首を横に振るその仕草も、かすかにうなだれる水仙の花のようだが、どぎつい花粉が飛んできそうだ。
それにしても、玉琴の若々しく見えることに望は内心驚いた。
以前に見たときから十年近くたっているはずだが、髪は黒々として、肌も、そろそろきつくなってきた夏日を浴びて艶やかに輝いている。当時とすこしも変わっていない。
玉琴は祖父の贔屓の芸者であり、別荘にもよく出入りしていた。
そして、幼かった望は、あるとき祖父とこの女の男女の秘めごとを見てしまったのだ。
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幼かった望の目に、二人の淫らな姿は強烈な印象となって焼き付いて、ふだんは忘れていても、消えることはない。
肉付きのよい女の太ももが、祖父のしなびた腰にからみついていた姿は、望を身震いさせる。
朝の爽やかな空気のなか、あの淫蕩きわまりない光景が目によみがえってきて、望は背に嫌悪をおぼえた。
また、そんな潔癖さが、まだ自分に残っていることがまた意外だった。
「あらあら、どうなさったんでございますか、相馬の坊ちゃま? あたくしの顔になにかついていますかねぇ?」
女はやや素の口調になって笑った。両手には、手土産なのか見舞いの品なのか、小豆色の風呂敷につつまれた小さな荷物がある。少しも重そうではない。草履の上の裾は汚れておらず、ふらりと近所におつかいに出てきたようだ。
「あの……、ここまでどうやって来たんですか?」
望の問いに、女はすらすら答えた。
「近くまで知り合いに車で送ってもらいましたの。坊ちゃまが見えたので、こんなところで何をしていらっしゃるかしらと思いまして、追いかけてきましたのでございますわ。その知り合いはもう帰りましたけれど……」
「そ、そうなんですか。あ、荷物、持ちましょうか?」
一応気をつかって言うと、女は頭を横に振る。
「とんでもございません。華族の若様に荷物持ちをさせるなど。ほほほほ」
首を横に振るその仕草も、かすかにうなだれる水仙の花のようだが、どぎつい花粉が飛んできそうだ。
それにしても、玉琴の若々しく見えることに望は内心驚いた。
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