昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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儀式 二

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 父はそそくさと帰っていった。今回もまた章一は父の車に同乗して、帰っていったのだ。
 父は、やはり嫡男である自分を無視して、孫に爵位をゆずった祖父に怒りがあるのだろうか。
 だが望は代替わりの儀というのが気になって、今は父の気持ちに鈍感だった。
 自分は本当に伯爵になるのだろうか。この若さで……。まったく実感がわかない。
 父や勇をさしおいて、この自分が相馬の当主になるなど、想像もしていなかった。
 祖父はなぜ若い、というより幼いような自分に爵位をゆずろうとするのか。
 そんな疑問が顔に浮かんでいたのだろう。
「相馬の当主には、特殊な勤めがあるのだ」
 勇がさとすように言った。
「勤め……?」
 華族にはむろん、さまざまな役目や責任がある。華族のなかには政治家になる者、軍人になる者、学者や作家、芸術家になる者などいろいろいる。公家出身の華族などには、和歌や蹴鞠などの文化芸術を後世につたえるのが使命だと考えている者も多い。華族・貴族といっても、けっしてのんきに遊んでいるわけではない。
 もちろんなかには、趣味や遊びに没頭して何も成さずに一生終わるという放蕩華族もいれば、恋愛にかまけて醜聞を引き起こすような不良華族もいるが。
「勇さん、僕の勤めとは、なんなのですか?」
 そんなことを訊く望は、少し大人びてきていた。
「儀式の日にわかるさ」
 勇の口調にはほのかに苦笑めいたものを含んでいた。
 仁は目をそらして、決して望を見ようとはしない。
 望はますます落ち着かない気持ちになってきた。
 その儀式の日、自分の身に何かが起こる――。そんな気がしてきた。

 儀式といっても、けっして派手なものではなかった。
 数人の客が来るだけらしい。
 そもそも、今回の代替わりについても、宮内省にとどけることもなく、あくまでも身内だけでのことだという。望はなんとなく気が抜け、すこし安心した。
 昨夜は、学友たちから‶相馬伯爵〟などと呼ばれることを想像して、ひどく落ち着かない気持ちになったのだ。
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