昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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儀式 四

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「あら、ご存じない? 旦那さまは、忠さまに跡目をゆずろうと考えられたこともありましたのよ。でも、忠さまったら、それが嫌だとおっしゃって、逃げてしまわれましたの。代替わりの式の当日に。……もう昔のことでございますけれどね」
 初めて聞いた。
 それでは、祖父は父に爵位をゆずるつもりだったのか。父の方で襲爵を嫌がったということなのか。そう思うと、望は少し気が楽になった。
「それは、いつ頃のことなんですか?」
「もう、かれこれ十年以上前のことでしたかしらねぇ」
 望が五、六歳ぐらいのころか。
「あたしは、そのときもこちらのお屋敷に呼ばれておりましてね。……大変でございましたよ。式の主役が逃げてしまわれたんですもの。旦那さん……御前はさんざんお怒りになられて、忠はもう失格だ、やつには爵位はゆずらん! とおっしゃられまして」
 女の目は当時のことを思い出してか、おもしろそうに輝いている。この女にとっては相馬家の騒動は笑い話でしかないのだろう。
「でも、まぁ、もともと忠さまは相馬家を継ぐことには興味がない、というより、ひどく嫌がっておられましたから、それで良かったんでございましょうよ。あの方には相馬の当主は無理でございましょうね。気が小さそうですからねぇ……」
 さすがに芸者風情に父を侮られると望はおもしろくはないが、黙っていた。悔しいが、この女は祖父の寵を受けているのだ。
「その点、坊ちゃんは器が大きそうですわね。将来が楽しみですわ」
「坊ちゃんというのは、やめてもらえませんか?」
 なんとなく、女に抗いたい気持ちになり、的外れな抗議をした。
「あら、失礼。坊ちゃま」
「いえ、そうじゃなくて、名前で呼んでください。望です」
 玉琴は例の切れ長の目に、ねっとりと妖しい火をちらつかせた。
「望さまは、気が強そうでございますわねぇ。ふふふ」
「そんなことは、ないですよ」
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