昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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儀式 五

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 一応、そう言ってみた。
 色気のしたたるような玉琴の目に、情火が燃えたつ。
「あら、どうして? ほんの幼い頃から、あたしと御前のことを覗いていたではございませんか? 胆の大きな坊ちゃんだと、あたしは感心しておりましたのよ」
 望は頭を木刀で叩かれたような衝撃を受けた。
 この女は、知っていたのだ。
 幼かった望が、祖父とこの女の情事を見ていたことを。
「あ、あの……! 僕は、」
 望は身体が震えるのを必死におさえた。
「あら、真っ赤になられて。可愛い方ね。いいんですのよ、気になさらなくて。坊っちゃ、いえ望さまに見せるためだったんですもの」
 望は再度、木刀で頭を叩かれた気がした。
「そんな驚かないでくださいましよ。御前の意向ですわ。御前は、ああいう方ですから」
 すべてを見通したような目つきで、さらりと言う女がひどく憎らしい。それ以上に祖父が憎らしくてならない。
 いったい、祖父、相馬崇という人間は、どういう人間なのだろう。
 あらためて望は不思議に思った。
 古い家に生まれ育った人間は、どこか世間一般の人とずれているところがあるというが、祖父の場合は甚だしい。
 好色で女遊びをするだけならまだしも、孫に猥褻な真似をし、おのれの情事を見せつけ、今も手をつけた女を屋敷に出入りさせ、やりたい放題している。
 父忠が、この祖父とうまくいかず、爵位も拒否して遠ざかろうとするのは、正しいことなのかもしれない。
 一瞬、望は自分も逃げようかと思った。
(あんな祖父のことなど、もう放っておけばいいのかもしれない)
 思えば自分ももうすぐ十六だ。いつまでも祖父の言いなりになることはないはずだ。爵位や当主の座などそれほど欲しいとも思えない。
「望さま、今、儀式をすっぽかしてやろう、なんて考えていません?」
 望はぎょっとした。
 当たらずといえども遠からず、である。
「そ、そんなことは」
「お父さまと同じように逃げ出してやろう、なんて不埒なことは考えていませんよねぇ?」
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