昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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金襴の新床 二

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「んっ……!」
 長年憧れつづけた人の唇は、蜜のように甘い。
 夢のなかで幾度となく体験したことを、今望は現実の行為としているのだ。
「ふぅ……」
 呼吸がしづらいのか、仁が苦しげに喘ぐ。
 望は唇をはなし、首から胸元へかけて接吻を落とす。
「ああっ……、ああ……」
 羞恥と恥辱に真っ赤になり、仁はそれでもなんとか逃れようとするが、やはり本気で逃れることはできないようで、むなしく手は宙で泳ぐ。
 白い胸元に顔をうずめると、麝香が妖しくかおる。
「仁さん、仁さん……!」
 うわずった声が漏れる。
「望くん、やめ……、やめてくれ……! 頼むから!」
 最後の言葉は涙声になっている。
 望はかまわず仁の白い肌に接吻の雨を降らす。
「んっ……!」
 胸の可憐な二粒の突起を舌先でつつくと、仁はつらそうに身体を反らす。
「ああっ、やめ、やめて……!」
 母の乳房をもとめる赤子のように、望は愛しい男の乳首を吸う。
 右胸の乳首を幾度か吸いあげ、こころもち形を成らせてから、乳輪を舐める。
「はぁっ……!」
 仁は全身で嫌がるが、逃れることはできず、望の激しい愛撫を受けとめるしかない。
 興奮に燃えていても、固唾かたずをのんで客たちが自分たちを見つめていることが、望には痛いほど感じられる。
 仁はさらに強く視線の痛みを感じているのだろう。
 望が顔を上げると、仁の辛そうな顔が見える。
 寄せた眉はさらに深く刻まれ、頬は赤くなり、苦しげに息をこぼす。
「うう……。や、やめ……」
 仁の嫌がることはしたくないという想いと、めちゃくちゃにしてやりたいという欲望が望のなかで吹き荒れる。
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