昭和幻想鬼譚

文月 沙織

文字の大きさ
138 / 190

金襴の新床 一

しおりを挟む
 静まりかえった室のなか、ぼんやりとただ座りこんでいる自分はさぞ滑稽だろうと思うものの、身体が動かない。
 逃げ出した父忠は、相馬家の男にしては常識人だったということが今わかった。
 望は、あまりの気まずさに、いっそ仁が席をたって逃げ出してくれれば、と願った。
 けれども、そう願った次の瞬間、白装束の仁にたまらない情欲がわく。
 ほっそりとした横顔をややうつむけ目を伏せている仁の様子は、どんな女よりもしなやかで、乙女のように初々しい。男であり、軍人でもあり、気位たかい貴公子である仁だが、まるで夫を待つ新妻にいづまのようなその様子は、深窓の令嬢のように初心うぶで、けなげでさえある。
 たかまる恋着、激しい欲望。愛しいと欲しいは、望のなかで同じ感情である。
 額に汗が浮き、唾をのんで、一瞬、望は歯を喰いしばった。
 そして、次の瞬間には、仁に飛びかかっていた。

「あっ……!」
 覚悟はしていたのだろうが、仁はあわてて、手で望をはねのけようとする。
 望はおさえこみ、両手で相手の胸元をはだけさせる。白い肌が光るように望の目を刺した。
「やめ……! やめてくれ……!」
 やはり仁は抗うことを止められないのか、あがく。
 無理もない。もともと誇り高い人である。
 華族出身で軍人になる者は少ないが、そんな世の風潮のなかであえて入隊し、きびしい試練のなかでそれなりに世に出た男である。
 それが、人目のあるところで年下の少年に凌辱されるのだから、死ぬほど辛いだろう。
 だが今の望には仁の気持ちを慮る余裕は、もはやない。
 仁が本気で抵抗すれば、望に組み敷かれることはないだろうが、それができないのは当主の命令は絶対という家訓の重みのせいだ。
 よく華族は皇室の藩屏はんぺいというが、相馬家においては――外では絶対言えないが――皇室よりも重視されているのが当主である。
 そして今、現当主相馬崇は熱のこもったきびしい目で二人を見ている。
 望は仁に馬乗りになると、強引に接吻した。
「んっ……!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

身体検査その後

RIKUTO
BL
「身体検査」のその後、結果が公開された。彼はどう感じたのか?

処理中です...