昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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泥色の夏 七

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 牛雄が立っていたのだ。この魯鈍そうな大男に、つい先ほどまでの室内でのことをすべて知られているのかと思うと、仁は堪らない羞恥を覚える。
「牛雄、おまえも来るがいい」
 望の言葉は、さらに仁の顔をこわばらせる。
 望、勇、そしてこの下卑た男が来て、ただですむわけがないことを仁はすでに充分知らされていた。
 幼児じみた望の残酷な仕打ちは、ここ数日で仁をすっかり萎縮させていた。薄暗い和室のなかで繰り広げられた淫虐の行為は、仁の神経のさいごの線を切りかねないものだった。 
 あらゆる行為を強制され、さんざんなやりかたでもてあそばれ、ときには勇や牛雄が加わってくることもあった。彼らと身体をかさねることはないが、かなり際どいことをされた。それを見て望はおもしろがっているのだ。
 仁は本当に自分は気が狂うのではないかと恐れた。
 それでも狂うことも自殺することもなく、生きてまた恥をさらしているわが身を恥じ入るようにうつむき、屠殺所へつれていかれる羊のように望に手を引かれて足を踏み出すしかない。
 贄に選ばれからには、従うしかないのだ。 
 贄とは、そういうもの。当主となる者のためにすべてを捧げ、尽くすものだと教えられていた。
「今夜は三人で夕涼みだな」
 玄関にはすでに勇が、やはり浴衣すがたで待っていた。
 黒のしじら織りの浴衣で懐手にして、いかにも待ちどおしそうにしていた様子は、ふだんの軍服すがたのときのいかめしさがやわらぎ、くだけていて、粋である。
「おまえのそういう格好も悪くないな。今度は和装をさせてみたい」
 勇の目は仁しか映していない。望はおもしろくなさそうな顔になる。
 それでも三人は牛雄をしたがえ、仁をはさむようにして夕暮れの世界に出た。

 夏の夜はまだとおく、あわく茜に染まりつつある空を背に歩く一行を見て、近くの農家の百姓がお辞儀する。三人を見送るその中年男の目は、とつぜん降ってきた夕空の星を見るようにまぶしげだ。
 勇は下駄で平気で歩くが、望と仁は里の道が不慣れなので草履ばきだ。
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