昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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秘密 六

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 頭がまたズキズキと痛みだしてきた。
 このおぞましい魔婦のいうことが真実なら、この女、玉琴は、自分の実の子と交わり、さらにその孫である忠の相手もしようとしたのだ。忠が逃げ出したのは、まともな人間なら当たり前だ。
 そしてその父忠を生んだのは都だという。
 では、都は自分の祖母であり、玉琴もまた――口にするのもおぞましいが、望の祖母ということになる。
 吐き気がした。
「あ、あんたちは……あんたたちは、いったい何者なんだよ!」
 このおぞましい妖怪たちの血が自分にも流れているのかと思うと、望は激高せずにいられない。
 ふん――。玉琴は鼻でわらう。 
「まぁ、あんたももう知っておいた方がいいね、自分の出自を。そうさ、教えてあげるよ、あたしたちは人ではないのさ。あたしたちは、人の腹から生まれたものではないのさ」
「な……、じゃ、じゃあ、何ものから生まれたというんだよ!」
 にんまり、と玉琴は笑う。たしかにこの女は人間ではない。
「狐さ」

 昔話として聞いたことがないかい、妖狐玉藻の前の話を?
 大昔、時の帝の閨にはげって帝をたぶらかし、国を我が物にして傾けようとした、文字通り女狐がいたのさ。お伽話と思われているけれど、そういう化け狐が朝廷を影で牛耳っていたのは事実なのさ。
 そして正体を見破られ、逃げ、追い詰められ射殺され、あの殺生石の下に眠ることになった……。けれどそこを訪れた僧を、最後の力でまどわし、一夜の交わりによって生まれたのが、そう……あたしたち。

「馬鹿々々しい! そんな与太話を信じろっていうのか!」
 たしかに、そんな怪談めいた話は聞いたことがある。
 玉藻の前という美しい官女が平安時代の末ごろにおり、鳥羽上皇の寵愛を受けたと。だが実は妖狐であり、正体を暴かれ追われ、最後はどこかで殺生石という石に変じたとかいう話だった。
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