昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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終末の夏 一

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 僕の少年時代の夏の日々は、ひどく目まぐるしく過ぎていった。

 あの夏から一月とたたないころ、大陸で騒動が起こり、その事件に引きずられるようにして国中が動乱のさなかに放り込まれた。
 そう、恐ろしい戦争がはじまり、それは僕の少年期も青年期のはじめも食いつぶしてしまったのだった。
 いろんな事が起こり、いろんなものを僕は失うことになった。
 始まりは、やはりあの夏。
 僕のいとこ、相馬望が失踪した夏だ。
 彼に、いったい何があったのか。
 思い出せば、彼にはもともと神経質なところもあり、時々ひどく過激になるところがあった。
 失踪するしばらく前からひどく様子がおかしかったのは、やはり若年の身で相馬家の当主となった重責が原因ではないかと、叔父の勇さんは言っていらっしゃったが、現在もなお望の行方は知れない。
 望がいなくなってすぐ祖父は身まかった。
 望の失踪と前後して、親戚になる仁さんは、そのころ病がちだったそうだが、さらに胸を悪くされ、これは感染するものだそうで、山奥の療養所へ行かれ、その後会うことはなかった。
 仁さんは社交界でも有名な、たいへんな美男子で、僕の記憶にかすかに残る面影は、ひどく美しく、儚げなものだった。もう会えないかと思うと少し胸が痛い。
 仁さんがいなくなってから、勇さんもまた戦争で南アジアに赴かれ、それから帰ってくることはなかった。
 まさに相馬家が、その長い歴史と権威の喪失と終末の季節をむかえたのが、あの忌まわしくも懐かしい夏だった。
 相馬家はあくまでも母の実家で、僕自身は爵位とは縁のない平民なのだが、それでも栄えある一族の滅亡の日々を見ているのは辛かった。
 母の兄であり望の父である相馬忠氏は敗戦後、華族制が廃止される日の直前に拳銃自殺を遂げた。このことは異母兄と仲がよかった母には相当の打撃で、母はその後精神を病んでしまい、部屋にこもってうつろな日々をおくる廃人も同然の人となってしまった。
 母が心病んだ原因は、なにも伯父の死だけではない。
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