艶夢百景

文月 沙織

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花の宿 六

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 自らの内の熱を、豊円に知られるのはもっと恐ろしい。
(見てはいけない)
 必死に自分に言いきかせ、画集を畳の上に置こうとした。
「どうしたのだい? もう見ないのかね?」
 豊円の声は、ねっとりとした熱をふくんでいた。その熱が光則のうちに生じた熱をもそそる。
「え、ええ、もうけっこうです」
「君は初心だねぇ」
 光則はぎょっとした。
 膝の上の自分の手を、豊円がいきなり握りしめたのだ。
「もっと見てごらん、ほら、」
「あ、あの」
 光則が手放した画集に豊円は手を伸ばし、先ほどの項をひらいた。
「ほら、ここなんて、面白いよ」
 その項は両開きになっており、二枚分にわたって絵が描かれている。
 黒に塗りつぶした背景のなかに、まん丸の月があり、その月のなかで、世にも無残な光景が繰り広げられている。
 貴公子は、賊二人によって、あろうことか四つん這いの姿勢を取らされている。全裸に剥かれても白く美しい貴公子の肌。それに対して襤褸のうえに獣の皮でつくった衣をまとった狂暴な顔つきの大柄な男たち。彼らは卑しい笑いを浮かべ、貴公子を嬲りぬく。
「この、太腿あたりを撫でる男の手つきの描きかたなど絶妙だね」
「え、ええ、巧いですね」
 毛深い手が、貴公子の白い脚や臀部を撫でまわしているのが感じられる。光則は自分がそうされたような気がして、落ち着かなくなる。
 豊円の手が、光則の膝に触れる。
 豊円に男色趣味があるという噂はふしぎと聞いたことがなかった。女性との関係はいろいろあったようだが、相手はいずれも玄人か未亡人で、醜聞として騒がれたことはあまりない。金や地位のある男なら、それぐらいは当たり前としてお目こぼしされた時代である。 
 膝の上に感じた男の手が、動く。やんわりと、ゆっくりと、光則の股間に近づく。
 やり過ぎだ。すでに冗談ではすまないことになってきていた。
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