8 / 25
闇夜の夢 一
しおりを挟む
恐怖にちかい困惑のなかで、光則は触れている豊円の衣からふしぎな香を嗅いだ。
(ああ……)
気が遠くなるような感覚にまどわされ、力が抜けていき、光則は昏い夢の世界へといざなわれていく。
やはり、おかしい。
藤原光経は、黒い夜空にぼんやり滲んで見える三日月を眺めて、不安を覚えた。
「道が違っていないか?」
供の豊久にたずねても、
「いえ、たしかこの道をゆけば、集落に出るはずです」
と答えるが、先ほどから道はさらに険しくなり、ただでさえ暗い森がいっそう暗くなってくる。
心細い限りである。この先の己の未来を見るようで、光経はさらに消沈した心持になってくる。
「光経様、お疲れでしょう。すこし休まれますか?」
「そうだな」
馬から下りて、ため息をついた。
これ以上無駄に動けばますます疲れるだけだ。ここで野宿することを覚悟した方が良いかもしれない。もう一人の供に水をさがしに行かせた。都を出たときはさらにもう一人付き従う者がいたが、彼は森に入るまえに姿を消した。落ちぶれた主君を見捨てて遁走したのだろう。怒る気力もなく、光経はほうっておいた。
「ほれ、そこにある岩に腰かけられては」
「うむ」
一日じゅう馬に揺られていたので身体はひどく疲れている。馬も可哀そうにさぞ疲れたことだろう。近くに生えている草をたべて飢えを満たしている痩せた愛馬を見、光経の胸に切ない想いがこみあげてくる。
藤原姓を名乗ってはいるが、両親も早くに亡くし、頼りとなる身内もいない光経の立場は一門のなかでは弱いもので出世も遅かった。なんとか身をたてたいという焦りで、遠い縁者をたよって、ときの上皇に仕える役目をおおせつかったが、喜びもつかの間。
上皇にたのまれ取り寄せた宋わたりという器を、御前に献上したところ、なんとそれは贋物で、巷の古道具屋で売られていたものだと判明した。勿論、光経はそんなことは知らず、ただ商人が持ってきたものを本物と信じて御前に差し出しただけである。
(ああ……)
気が遠くなるような感覚にまどわされ、力が抜けていき、光則は昏い夢の世界へといざなわれていく。
やはり、おかしい。
藤原光経は、黒い夜空にぼんやり滲んで見える三日月を眺めて、不安を覚えた。
「道が違っていないか?」
供の豊久にたずねても、
「いえ、たしかこの道をゆけば、集落に出るはずです」
と答えるが、先ほどから道はさらに険しくなり、ただでさえ暗い森がいっそう暗くなってくる。
心細い限りである。この先の己の未来を見るようで、光経はさらに消沈した心持になってくる。
「光経様、お疲れでしょう。すこし休まれますか?」
「そうだな」
馬から下りて、ため息をついた。
これ以上無駄に動けばますます疲れるだけだ。ここで野宿することを覚悟した方が良いかもしれない。もう一人の供に水をさがしに行かせた。都を出たときはさらにもう一人付き従う者がいたが、彼は森に入るまえに姿を消した。落ちぶれた主君を見捨てて遁走したのだろう。怒る気力もなく、光経はほうっておいた。
「ほれ、そこにある岩に腰かけられては」
「うむ」
一日じゅう馬に揺られていたので身体はひどく疲れている。馬も可哀そうにさぞ疲れたことだろう。近くに生えている草をたべて飢えを満たしている痩せた愛馬を見、光経の胸に切ない想いがこみあげてくる。
藤原姓を名乗ってはいるが、両親も早くに亡くし、頼りとなる身内もいない光経の立場は一門のなかでは弱いもので出世も遅かった。なんとか身をたてたいという焦りで、遠い縁者をたよって、ときの上皇に仕える役目をおおせつかったが、喜びもつかの間。
上皇にたのまれ取り寄せた宋わたりという器を、御前に献上したところ、なんとそれは贋物で、巷の古道具屋で売られていたものだと判明した。勿論、光経はそんなことは知らず、ただ商人が持ってきたものを本物と信じて御前に差し出しただけである。
10
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる