艶夢百景

文月 沙織

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闇夜の夢 一

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 恐怖にちかい困惑のなかで、光則は触れている豊円の衣からふしぎな香を嗅いだ。
(ああ……)
 気が遠くなるような感覚にまどわされ、力が抜けていき、光則は昏い夢の世界へといざなわれていく。



 やはり、おかしい。
 藤原光経みつのりは、黒い夜空にぼんやり滲んで見える三日月を眺めて、不安を覚えた。
「道が違っていないか?」
 供の豊久にたずねても、
「いえ、たしかこの道をゆけば、集落に出るはずです」
 と答えるが、先ほどから道はさらに険しくなり、ただでさえ暗い森がいっそう暗くなってくる。
 心細い限りである。この先の己の未来を見るようで、光経はさらに消沈した心持になってくる。
「光経様、お疲れでしょう。すこし休まれますか?」
「そうだな」
 馬から下りて、ため息をついた。
 これ以上無駄に動けばますます疲れるだけだ。ここで野宿することを覚悟した方が良いかもしれない。もう一人の供に水をさがしに行かせた。都を出たときはさらにもう一人付き従う者がいたが、彼は森に入るまえに姿を消した。落ちぶれた主君を見捨てて遁走したのだろう。怒る気力もなく、光経はほうっておいた。
「ほれ、そこにある岩に腰かけられては」
「うむ」
 一日じゅう馬に揺られていたので身体はひどく疲れている。馬も可哀そうにさぞ疲れたことだろう。近くに生えている草をたべて飢えを満たしている痩せた愛馬を見、光経の胸に切ない想いがこみあげてくる。
 藤原姓を名乗ってはいるが、両親も早くに亡くし、頼りとなる身内もいない光経の立場は一門のなかでは弱いもので出世も遅かった。なんとか身をたてたいという焦りで、遠い縁者をたよって、ときの上皇に仕える役目をおおせつかったが、喜びもつかの間。
 上皇にたのまれ取り寄せた宋わたりという器を、御前に献上したところ、なんとそれは贋物で、巷の古道具屋で売られていたものだと判明した。勿論、光経はそんなことは知らず、ただ商人が持ってきたものを本物と信じて御前に差し出しただけである。
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