艶夢百景

文月 沙織

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闇夜の夢 二

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 その商人も、朋輩のひとりが「信用できる者として」推薦してくれた者である。だが、申し開きはみとめられず、流罪も同然の遠地任命を受けた。くだんの商人も、古道具屋の主人という男もさがしては見たが姿は見えず、商人を推薦した朋輩に聞きただしても、自分は何も知らないと言い張る。
 光経はそのときになってようやく己が罠に嵌められたのだと気づいた。自分のような出世から外れ世間から忘れられていたような者でも、目障りに思うものがいたようだ。
 同情した老朋輩がこっそり教えてくれた。
「お気の毒に。あなたの母上は滅びたとはいえ宮家の御血筋で、それは今の帝にはやや含むところあるお家でしてな。その血筋の人間が、上皇の元で万が一にも力を得ては、と危ぶむものがいたのであろう」
 帝と上皇の不仲はまえまえから堂上で囁かれている。思いがけず、そんな権力闘争に光経はまきこまれてしまったのだ。
「そんな……私のようなたいして取柄のないものまで目の敵にせずとも」
「いやいや、あなたはご自身で思っていらっしゃるより目立つ存在なのじゃよ。母上に似て見目麗しくあるし、歌の才も多少世に聞こえておって、人目を引くところがある。そんなあなたが上皇膝下にいることで、母上の御家が栄えていたころのことを思い出されると、それを好まぬ者もいるのじゃろう」
 老人の目はいたわしげであったが、光経にはなんの慰めにもならなかった。
 罪人として処罰されなかっただけまだ運が良いという人もいたが、まがりなりにも都に生まれ育った貴族のはしくれである光経には、陸奥という遠地への任命は島流しでしかありえず、充分に罪人として裁かれたことになる。
 光経はやりきれない想いで闇色の空をながめ、三日月めがけて溜息をはく。
「おまえにも苦労をかけるな、豊久」
 長年仕えてくれた家人であり、今の光経にとっては唯一の身内のような存在である召使をあらためて見て、光経はさらにまた胸が痛んだ。
 豊久は幾つになるのか。光経が物心ついた頃すでに成人であり――寿命のみじかいこの時代では――すでに初老に近いのではないかと思われるが、三日月におぼろに照らされた顔は精悍そうで、芯の強さが感じられる。
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