鈴の鳴る夜に

文月 沙織

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薄闇の屋敷 三

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「はい。あの、馬鹿げているとは思うのでございますが、幽霊が出るとか」
「へー」
 竜樹が少年らしく好奇心に目をかがやかせた。
「幽霊というのは、その、亡くなられた田所さんという方のですか?」
「ええ」
 お糸は、いかにも言いづらい、というふうに袖口で口元をおさえる。色褪せた花にも色が残っているのを感じさせる仕草である。
「それといいますのも……田所さんの奥さんのおみつ、いえ、お満さんという人が、うちの亭主は殺されたのだと言いふらかして……その人が滝壺あたりを亡くなった人を偲んで歩きまわっているうちに、幽霊を見たのだとなんだと……本当に困ったことで」
「ふうむ」
 田所、妻のお満。須藤は頭のなかにその名を刻みこんだ。
「私は、それはお満さんが嘘をついているとは思いませんが……、作為めいたものを感じるのでございます」
「幽霊の正体を探ればいいのですね?」
 竜樹がまた口をはさむ。
「はい」
 首を縦にふるお糸にむかって須藤が真摯な目をむけた。
「わかりました。出来るかぎりのことをします」

「誰かが幽霊の真似をして、そのお満とかいう人に夫の幽霊だと信じ込ませたんじゃないかな?」
 畳のうえで寝転がっている須藤に竜樹は自分の考えを口にする。
「かもな。しかし、この屋敷、妙に気になることが多いな。一番気になるのは、やはりあの鈴希だな」
「へー。正二、あの人のことが気になるの?」
 拗ねたように言う竜樹の頭を、須藤は軽くはたいた。
「ばーか。変な意味じゃない。いや、変な意味もあるかな」
「なんだよ、それ?」
 不思議そうな顔をする竜樹に須藤は皮肉気な笑みをみせた。大人びた、すべてを知っているぞ、という男の笑い。外国の俳優、あのジェームズ・ディーンを思わせるようなととのった顔を、竜樹は少し恨みをこめて睨みつけた。かくいう竜樹は、やはり外国の有名女優、オードリー・ヘップバーンに似ていると言われるが、嬉しいと思ったことは一度もない。
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