今度は、私の番です。

宵森みなと

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第四十一話 出会いと小さな歯車たち

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後方支援局の骨組みは、まだ完全に整ったわけではない。

基本構想や目的、理念の部分はすでに定めてはいたものの、肝心の“中身”――具体的な部門の割り振りや業務の流れ、人材の適正、支援物資の生成指針、現場との連携体制など、詰めなければならないことは山ほどあった。

……けれど、私はまだ学生だ。

日々の授業もあるし、課題も当然容赦なく出される。それに加えて、軍部や騎士団から提出された山のような書類。現場の声を聞くために行った聞き取り調査の内容をまとめ直さなければならないのに、気づけばノートの端に魔法式を書きかけては、また消し、気づけば日が暮れている……そんな繰り返しだった。

「時間が……足りない……!」

教室の片隅で、ぼそりと嘆く。

文章作成は嫌いではないけれど、得意かと問われれば、そうでもない。私の魔法は物を生み出すけれど、書類は生み出してはくれない。ああ、どこかに頭が柔らかくて、誠実で、そして何より“脳筋ではない”――そんな人はいないものか。

思いつめた末に、授業の合間を縫って教員室へと向かうことにした。頼れる人は、担任のマイナル先生しかいない。教員室の扉をノックして中へ入ると、先生は少し驚いた様子で顔を上げた。

「軍部や騎士団から届いた資料のまとめをしたいのですが、どなたか協力してくれそうな生徒をご存知ないですか?」

先生は少しだけ眉根を寄せ、腕を組んで考え込んだ。

「特別科の中では……難しいだろうな。皆、自分の課題で手一杯だ。だが、他の科や学年なら、心当たりがあるかもしれない。少しあたってみよう」

そう言ってくださっただけでも嬉しかった。正直、すぐには見つからないだろうと思っていたから。

けれど、予想に反して、放課後にはすぐに三名の生徒を連れてきてくださった。

ひとりは、騎士科の三年生。端正な顔立ちに、きちんとした立ち姿。名前はセレガル=オーレン。由緒ある子爵家の三男で、かつて剣技に秀でていたというが、馬車に轢かれそうになった子供を庇って肩を痛め、今は剣を握ることができないという。だが、成績は常に上位。物静かで実直な雰囲気が漂っていた。

もう二人は、普通科の三年生。タイラーとアレクサという男子生徒だった。

タイラーは明るい雰囲気を纏った青年で、目元がどこか人懐こい。アレクサはやや無口だが、優しげな眼差しと、指先の細やかさが印象的だった。二人は、自分たちで本を出して小説家になろうとしていたらしい。文章と挿絵を分担して、何度か出版社に持ち込んだものの、ことごとく断られてしまったのだとか。

進路が決まらないまま、行き場を探していた――そう、先生は教えてくれた。

「では、まずは自己紹介から始めましょうか」

私は、教員室の一角で三人に向かって、礼を正して言った。

「お初にお目にかかります。サフィール伯爵家の次女、王立学園高等部・特別科一年、セレスティアでございます。本日は、急なお願いにも関わらず、時間を割いていただき、誠にありがとうございます」

そして、しっかりと顔を上げると――

「かわいい……!」「お人形みたい……!」

普通科の二人が、目をキラキラと輝かせて騒ぎ出した。……予想はしていたけれど、うるさい。

「騎士科三年、オーレン子爵家三男、セレガルです。……よろしく頼む」

セレガルは、そんな二人を一瞥しただけで、真面目に名乗ってくれた。その姿勢だけでも、私は内心でひとつ深く頷く。大丈夫そうだ。

「では、セレガル様とお呼びしても……?」

「いや、セレガルでいい」

「あら、では……セレガル様。早速、ご説明に参りましょう」

そう言って、私はその場を離れようとした。ところが――

「待ってよ!」「僕たち、まだ自己紹介してない!」

振り返ると、縮こまりながら手を挙げている普通科の二人。

「さっさとして下さいまし。こちら、忙しいんですのよ」と睨みつければ、二人は慌てて名乗った。

「普、普通科三年のタイラーです。……頑張るから、僕たちにも手伝わせてください。お願いします!」

「同じく普通科三年のアレクサです。文字は少し苦手ですが……絵なら得意です。よろしくお願いします」

一生懸命さだけは、ひしひしと伝わってきた。

「……ふう。では、三人とも、ついてきてくださいませ。先生、貴重なご紹介をありがとうございました」

軽く会釈して、私はその場を後にした。

小さな歯車が、少しずつ揃い始めた。

きっと、完璧じゃなくてもいい。

この三人がいてくれれば、また一歩、前に進める気がした。
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