今度は、私の番です。

宵森みなと

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第四十三話 始まりの書類と、集いゆく仲間たち

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後方支援局――その構想が夢から現実へと輪郭を持ち始めてから、すでに数週間が過ぎた。

学園での授業の合間を縫い、屋敷での資料整理と草案作成に追われる日々。私に与えられた時間は限られていたが、それでも仲間たちの支えもあり、ようやく……ようやく、形になった。

手元には、分厚い書類の束。これは私と、セレガル、タイラー、アレクサ――三人の協力者と共にまとめ上げた、軍部・騎士団双方の現場声を反映した初期報告書である。

そこには、支援が間に合わなかったことで苦戦を強いられた事例、情報不足による連携の齟齬、物資の到着遅れによる影響など、現場の“生の声”がぎっしり詰まっていた。

それらを抽出・分類し、支援局として何ができるかをひとつずつ言語化し、項目ごとに対処案を付記した。

加えて、支援局の初期活動において最も必要とされる“二つの人員枠”についても、明確にした。

一つは――事務方。

局の立ち上げに際し、制度設計、運用フローの構築、報告書の受け取り・確認、支援要請の受付など、裏方で支える部門である。人員の選定、配置、各部門への連絡、記録保全、予算運用……やるべきことは山ほどある。静かに、そして正確に支える人材が必要だ。

もう一つは――現地調査班。

これは前線や交渉地へ赴き、実際の地形、物資の流通状況、人的要因、魔獣や自然災害などの危険要素を把握・記録する役割を担う。ここでは、多言語対応能力と高い観察力が求められる。単に足を運ぶだけではなく、“その土地を読む”力が必要なのだ。

この二つの枠に、私たちはそれぞれの適性に応じて人員案も添えた。

まず、学園から協力してくれている三人――セレガル、タイラー、アレクサは、当面は事務方として起点を支えてもらう。

セレガルは冷静な分析力と整理能力に秀でており、各部門間の調整役として動ける。タイラーは思考の柔軟さとユーモアがあり、難解な報告内容を分かりやすく伝える才能がある。アレクサの図解や挿絵は、報告書を読む者に“現場の情景”を伝える力を持っている。

彼ら三人が土台を築いてくれる――その確信が、今の私の心の支えだった。

そして、もう一つ。

外交師団として共に旅をした、あの五人の存在。

エリオット。エリック。サマイエル。レオナ。エリーナ。

旅の間、彼らは護衛と補佐の名目で、私の傍にいてくれた。そして、見えないところで守り、支えてくれた。

そんな彼らの力を、今度は“支援局”の中で共に活かしたいと思っていた。

とくに、サマイエルとレオナは語学力と現地での立ち回りに長けており、現地調査班としての素質がある。彼らが現場を回れば、私たち後方班との連携がより具体的に結ばれるはずだ。

エリオットとエリックは、局長の私にとって、意思疎通が取りやすい安心できる存在であり、実行力のある二人が動けば、現地と王都の繋ぎ役も担える。

エリーナに関しては、場の空気を読み、人の気持ちを察する力に秀でている。支援対象者の心理的サポートや、現地住民との調整において、きっと大きな力を発揮してくれるだろう。

この七人で、まずは“支援局の骨格”を形成する。それが、今の私の描く“第一段階”だった。



王城の一室。厚く製本された草案と資料一式を携え、私はハルシュタイン侯爵と陛下の前に出た。

緊張で指先が冷たくなっていたが、深く一礼し、書類を捧げるようにして差し出す。

「後方支援局における初期活動に関する草案、第一次提出分でございます。資料には、軍部および騎士団からの現場報告を整理・反映しております。加えて、必要とされる初期人員の要綱と、支援局の主要機能に関する分類案も添えております」

陛下は黙って頷くと、書類を受け取り、ざっとページを捲り始めた。

「ほう……手が早いな。まだ草案と呼ぶには、ずいぶん精緻な部類ではないか」

と、傍らのハルシュタイン侯爵がニヤリと笑う。

「これが“脳筋じゃない助っ人”の力か。良い目をしてる者を見つけたな、小娘」

「……はい。彼らがいなければ、到底ここまでの形にはできませんでした」

陛下はしばらく沈黙したのち、ゆっくりと頷いた。

「……よいだろう。正式な内政局への提出前に、数名の高官に目を通させる。ただし、最終案は君自身が責任を持って修正・提出するように。これは君の名で始まる局だからな」

「はっ、心得ております」

部屋を辞する頃には、肩から力が抜けていた。けれど、まだ終わりではない。

この草案は“始まり”にすぎない。

――でも、始まりさえ創ることができれば。

あとは、走りながら作っていけばいい。共に走ってくれる仲間たちも、今はもう傍にいる。

静かに閉じた書類の表紙には、金文字で仮の題が刻まれていた。

《後方支援局:創設初期案・第一稿》

それは、私の未来の章の、まさに一頁目だった。
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