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本編
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しおりを挟む「い、つき……っ、あ、あっ……ぅ!」
五紀のことを抱きしめて安心させたいのに身動きは取れず、大丈夫だと言葉で慰めたいのに俺の口からは惨めな喘ぎ声ばかりが出てくる。ずっと望んでいた五紀とのセックスなのに、確かに深いところで繋がっているのに、俺と五紀の心の距離はどんどん離れていくみたいだ。恋人のように指を絡ませて握り込まれた手に痛いほど力を入れてみても、今の五紀には何も伝わっていない気がした。
体全体を揺さぶるような強い腰使いでやや乱暴に奥まで突かれても、そこから快感を得てしまうほどに俺はこの行為に興奮していた。痛いほど勃起したペニスから垂れるカウパーが自分の腹を濡らす感覚や、突かれる度にひくつくアナルから嫌でも思い知らされるのだ。お互いを尊重するセックスを夢見ていながらも結局、想いの通じ合っていない行為でも充分感じているじゃないかと。五紀を傷つけ続けながらも俺は確かに快感を得ているじゃないかと、頭の中の冷静な俺がそう俯瞰して嘲る。人の気持ちを踏みにじっているのは五紀ではなく、俺の方だった。
「っ、は……優、そろそろ出すからちゃんと受けとめてね……」
「ん、ぁあっ♡ぅあ゛、ああ……~~っ!♡」
背中にぴったりと張り付く五紀の熱を感じる。押し潰されるように五紀の体重が俺の背にかかり、中に入っている五紀のペニスが前立腺を容赦なくゴリゴリと擦った。何度も何度も同じ場所を突かれると快感がどんどん身体を蝕んでゆく気がしてならない。突かれるたびに増してゆく気持ちよさに体が勝手に痙攣してしまう。
「ま、だめ……な、ぁっ!あ、ん……ん゛っ♡」
「出すよ……っ」
そう言ったのとほとんど同時に、剥き出しになっていた項に痛みが走った。刺さるというよりも千切られるような強い痛みに思わず呻くが、身震いするような強い快感が身体を駆け巡る感覚に呻き声はすぐに嬌声へと変わっていく。感じたことのない痛みを伴いつつもそれを凌駕する快感に俺はただただ困惑しながら喘いでいた。
数回ほど身を揺さぶるようにピストンを繰り返した後、俺の一番奥で五紀は精を吐き出す。それと同時に俺も五紀のペニスを締め付けながら達した。コンドームを付けていないからか、ドクドクと何度も精を吐き出す五紀のペニスをまるで自分の体の一部のように感じられた。きつく締め付けすぎてしまったのか、食いしばるような吐息が耳元に降りかかった。
ああ、俺の腹の奥に五紀の精液が入ってしまった。もはや自分がどんな感情を抱いているのかさえ判別がつかないほど、心がくしゃくしゃになっている。ただ鋭い罪の意識が俺を蝕んでいることは確かだった。
「ああ、綺麗に歯形が付けられた」
俺の後ろ髪を掴んでいた手が離れ、今度はガラス細工を触るかのように優しく撫でられる。後頭部を数回撫でた後に首筋をなぞって手は離れていった。緩んだ拘束に振り返って五紀を見上げる。目が合うと五紀は穏やかに微笑んだ。その笑い方は俺が落ち込んだ時に優しく明るく慰めてくれる五紀の顔で、俺は心が空になるような虚しさを覚えた。
「ねえ優、番が欲しいならこうして僕が毎日、優の項を噛んであげる。不安だったら僕の項を噛んでくれても良いよ。僕は優の真面目で優しくて人のことを放っておけない献身的なところも大好きだけど、それは全部僕のためじゃないと嫌なんだ」
「五紀……お、れ……」
喘ぎ続けた喉には違和感があり、掠れた声では言葉の続きも口にできなかった。せめて抱きしめられればと繋いだ手を引こうとすれば、それよりも先に五紀に引っ張られて驚くほど簡単に仰向けに体を倒された。中に入ったままの五紀のペニスが妙な角度で俺の中を抉って、その予期せぬ刺激に思わず小さく息を吐く。真上から五紀に見下ろされると口を開くのを躊躇うほどの威圧感がある。自由になっていたもう片方の手も指を絡ませるように握り込まれ、全身丸ごと五紀に取り込まれてしまうような感覚に今更恥ずかしさを覚えて顔に熱が集まった。
「今回だって僕のことを思って別れようって言い出したんだよね?優が一番に僕を考えてくれたことは嬉しい……でもね、もう二度とこんなことはしちゃダメだよ?僕以外の誰かに抱かれることも、抱くことも……それから別れ話なんてするのも、全部禁止ね」
穏やかに言葉を続ける五紀のことを、ただ見上げることしかできなかった。夢に見ていたピロートークのような穏やかな雰囲気の中に、ただ決定的に取り戻せない何かが潜んでいることに、俺はなんとなく気付いていたのかもしれない。
「もし破ったら……そうだね、一緒に死んじゃおうか?」
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