痛がり

白い靴下の猫

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11.父親もどきを出禁にしてみる

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さとるとますみは、金庫を開けた功労者のメイはもとより、サシャにも優が残した情報を隠さなかった。
サーファが国際会議で留守にしている間にものすごく情報量が増えた。
優の遺産を正しく理解して実践していくためには、時間と労力と仲間が必要で、頭のよく回る人間を遊ばせておくほどの余裕はない。
メイが軽く息を吐きだして提案した。
「まずサーファ・デジュをごまかさないとですね。時間稼ぎをしてみますので、私を突き出してください。怪しげな動きをしていたと。それからあかり様の飛行機の侵入も、私の客だったことに」
さとるが速攻でメイの額を人差し指で押す。
「そんなメイの無駄遣いができるわけがないだろうが。それより、あんたらの雇い主、サーファじゃないんだよな?」
「違います」
メイがはっきり答える。
さとるは嬉しそうに唇の端を上げた。
「じゃあさ、サーファ締め出していい?」
「締め出す?無理です。彼はオーナー用の、勝手に変更できないセキュリティーパスを持っています。全遮断すれば締め出せますが、防御システムごと崩れます」
さとるは優の金庫から出てきた分厚いマニュアルを撮りだしてひらひら振った。
「できるよ、多分。でも、てめーは敵だって、宣戦布告することになるから、あんたらもサーファに恭順してるふりはできなくなる。こまる?」
メイはたっぷり五秒は考えた。
「父親にたいする葛藤は?」
「別に。既に十分家族には恵まれてる。一応あんたとも結婚してることになってるみたいだし?派手に優の匂いがするあんたを、あいつにくれてやる気は毛頭ない」
さとるがメイに片手を差し出す。握手、というやつだ。

さとるはいともあっさりと、サーファのパスを無効にした。メイの横で、目にも止まらぬ速さでマニュアルをめくり、コンソールキーを叩く。
優以外にこんな人間がいるとは思わなかった。メイにとって神は優だった。今、目の前のさとるを見て生まれて初めて思う。
優以外の神もいていい。
たまには神に試されたい、思い切り。

パスを無効にされたサーファの変わり身は激烈だった。後ろに数代のジープを連ね、怒りに燃えた目で、サーファがインターホンを押す。
「なぜかはいれないんだがね。開けてくれるか?」
さとるが答える。
「ああ、わりい。優のなぞなぞといたらさぁ、あんたのこといらないって言うんだよ。ここは自分の屋敷だってさ」
「嘘をつくな。まだ金庫が空いていないのは分かっているんだ!お前はまだなにも解いてはいない!」
「いい年してお父さんも反抗期、ってか?優がなぞなぞ仕掛けるのに一本道のはずないだろ」
さとるの挑発に、サーファの歯がギリっと鳴る。
「客があったそうだな。優の生徒か?」
「答えたくない」
「そうか。この地方で父親に逆らうとどうなるか、思い知らせてやるぞ」
「じゃぁ、俺はDVが不毛だって世界常識、思い知らせてやるよ」
サーファが車に戻り、無線に何言か発すると、十数人の私兵が散開した。
流石に屋敷には慣れているようだ。絶縁素材の防御服で、壁の電流をすり抜けてくる。

ビーッ ビーッ
けたたましい音が鳴って。
メイがインターホンを全開にするとすぐ、サシャの声が響く。
「メイ、ミサイル弾がくる!ますみさんたちを中央へ!ますみさん!聞こえてますか?貴重品持ってメイに続いてください!」
やれやれ、父親面していた奴がいきなり武装勢力と突っ込んでくるとか、展開早くないか。もうちょっと粘れよ。

メイが振り向いたとき、さとるは例のごついナップザックにパソコンを投げ込んでアンテナをつかみ廊下に飛び出すところだった。
メイが必死に呼びかける。
「待ってください!お願いします、ついてきてください!信じて!」
さとるは振り返って一瞬止まり、それから笑った。
「わかってるよ、中央って地下のほうのモニタールームだろ?目立つ管制ルームと反対側のやつ。あんたこそさっさとこいよ!おい、ますみっ、とりあえず行くぞ!」
ますみが更にさとるの前を走り始めるのをみて、メイが唖然とする。

「知っているんですか?」
「見取り図上はな!」
メイは、無言で兄弟を追い越して隠し扉をあけた。地下に続く通路にでると、とっくに煙は追ってこない。
モニタールームに滑り込むと、ひと目で燃えている箇所と、塀の外で砲筒を抱えた敵の場所がわかる。あたりは充分暗いのに、だ。塩害でできたどろ沼に敵が何人も潜んでいる。
メイがいくつかのボタンを押すと、沼に電流が流れ、敵の部隊は持ち場から転がり出た。
間髪いれずに無人の監視台から横なぎに弾を連射すると、数人は動かなくなる。
「サシャ!」
ますみが、煙で霞んだモニターの一角にサシャを認めて叫ぶ。スプリンクラーが作動し火は見えないが、煙が衰えていない。
特殊な燃料のミサイル弾なのかもしれないし、最悪毒ガスかもしれない。その煙の中に、サシャはいた。
ますみが走り出しそうなのを横目で捉えると、メイは横っ飛びに飛んでますみを突き飛ばし、自分だけ扉の外に転がり出ると重い扉を勢いよく閉じた。
ますみの鼻先でロックのかかる音がする。
オンにしたままのインターホンが、走っていくメイの声を拾った。
「すみません、しばらくそこにいてください。サシャのところへは私が行きますから。まだ、あいつらの戦力を確認できていません、動かないで」
「ちょっと!」
ますみは、ロックの解除ボタンを探したが、ロックどころか取手すらない。ぶっ叩いてもほとんど音が響かない重い扉を力任せになぐる。
「やめろ」
「だってっ」
「わかってる、でも、この説明書めんどくさいんだよ、すぐ開けるからちょっと待て」
さとるはナップザックから引きずり出したマニュアルの束に鼻を突っ込むようにして呻き、操作盤を一つ一つ丁寧に押した。
想像以上のハイテク装備。いくつかの設備は気密シャッターで囲ってパーフルオロカーボンに沈めることだってできる。
「うしっ」
さとるの声と同時に
ガコンッ
イメージ的にはカジノの金庫が開くような音がして、目の前の扉が両側に開いた。

さとるとますみが飛び出す。
メイに追いついたときには、煙は収まっていた。
ますみが、ひどく咳き込むサシャをモニタールームに抱えていく。

さとるとメイはその後ろを歩きながら、
「あんたら仲悪いの?」
と不躾に聞く。メイとサシャのことだ。
「それほどでも、ないのですが」
メイが差し出した濡れタオルをサシャは受け取らなかったのだ。
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